2012年6月9日土曜日

さしえ系美術館と生活~千代田線で行こう

今回は、さしえやぬりえを扱う美術館を取り上げてみます。千代田線の東側にはこのような美術館が色々あるのですが、一般的な旅行ガイドなどとは違った視点で紹介できたらと思います。

*弥生美術館・竹久夢二美術館(根津)
弥生美術館は、大正~昭和に活躍したさしえ画家高畠華宵(たかばたけ・かしょう)との交流から開館した美術館です。華宵のコレクション展示+企画展の2本立てです。企画展では、当時少年少女だった人たちのコメントなどを意識的に展示に取り入れています。「人々の生活の中の文化を紹介したい」と学芸員さんは言います。当時を思い出しつつ楽しそうに語る人生の先達たちの顔が浮かぶような展示がそこにはあります。
棟が隣接している竹久夢二美術館と同時に入館できます。

*金土日館 岩田専太郎コレクション(千駄木)
昭和を中心に色気のある女性の絵を多数生み出した岩田専太郎(いわた・せんたろう)の作品を常に展示しています。金土日開館なので金土日館。
大きな、しかし普通の家に見える建物に入ると、やはり大きなソファのある空間に。家的空間をうまく展示室空間に接合している、から行って心地よかったのかな。意外とマッチしているような、そうでないような。作品自体の鑑賞もさることながら、新鮮な鑑賞体験ができる場所です。

*ぬりえ美術館(町屋)
壁の「ぬりえ」という大きな文字が迎えてくれます。戦後すぐのぬりえブームをつくってその独擅場に立ったぬりえ作家蔦谷喜一(つたや・きいち)の作品を展示。土日開館。
蔦谷のインタビュー動画と音楽が流れる小さな展示室では、大規模美術館のそれとは違う、しかし作品の形態を考えた展示がみられます。きせかえ(現在のものとは「着せ方」が違います)や、ぬりかけのまま美術館に入ったぬりえを展示に見つけると、それで遊んだ人々の様子が想像できるよう。
館長のことば、「ぬりえを文化として提示したい。文化を扱うことをずっとやりたかった」。作品だけではなくて、その背景の文化とともに提示していこうという意欲が感じられます。実際に、定期的にぬりえをぬったり童謡を聞いたりする会も行っています。

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以上、3館ほど紹介しました。これらの美術館は、作品はもちろんですが、作品以外の人々の生活や文化をも扱うことで展示に深みを出しています。そもそも、「美術館」におかれる「美術」も、作品単体で成立していた訳では決してなく、それを描く人や売る人、たのしむ人、などのヒトビトで成り立っているのです。美術鑑賞においては、この「これは生身のヒトがつくっているのだ」という視点が意外と抜けているのではないかと思います。現代美術になると、作家が同じ土地で(もしかしたら近所で!)、現役で生きて活動しているというのに、結構にそれが忘れられているのではないか。
各作家を中心に扱ったこれらの美術館からは、そのことをよく感じられると思うし、この視点は音楽など他のジャンルの作品を見聞するときにも応用できる視点だと思います。個人的には、作品を鑑賞するということは、それに関わった人々に思いをはせることとほぼ同義であると思っているので、以上の美術館は、鑑賞という行為の根本的なところを確認する機会を提供するような館だといえると思います。

(竹)

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