2012年12月4日火曜日

Contact 2012-シンガポールのコンテンポラリーダンス・フェスティバル


上演後の会場の様子
シンガポールのダンスの話題が続きますがご容赦ください。今回は現在シンガポールで開催中のCONTACT 2012というコンテンポラリー・ダンスのフェスティバルの様子をお伝えします。3回目を迎えるCONTACT 2012は先日ご紹介したT.H.E Dance Companyが主催するフェスティバルで、今回は中国、イスラエル、ノルウェーなど世界20カ国以上からダンサーや振付家を招聘し19日間に渡って公演やワークショップを開催。グローバルなダンスシーンの今に出会えると同時に、シンガポールのダンスカンパニーと海外のアーティストのコラボレーションにも期待が高まる内容となっています。

私が観たのはフェスティバルのスタートを飾る”DiverCity”と題されたプログラム。その名の通り、多文化社会シンガポールを代表する個性豊かな4つのダンスカンパニーの作品を一度に楽しむことができる"お試しパック"的な構成で、どの演目を観ようか迷っている観客の道しるべとなっていました。

会場は廃校を利用した文化施設・Goodman Arts Centreにある150席ほどのブラックボックスで、ダンサーの身体を間近で感じるには快適な広さです。先日のT.H.E.の公開リハーサルは中華系シンガポール人の女の子が観客の大半を占めていましたが、この日は欧米人の観客も多く、最大で130席ほどが埋まっていたように思います。パンフレットは無料ですが、受付では配布時に寄付を呼びかけていて観客は思い思いの金額を支払っていました。4作品を35シンガポールドル(手数料込み、約2,350円)で観ることができるお得な料金設定とコミカルでアップテンポの親しみやすい演目が多かったにも関わらず、この日の観客はフェスティバル関係者やコアなダンスファンが多かったようです。こうしたプログラムこそ、コンテンポラリーダンスを観たことがない層にぴったりだと思うのですが・・・。

以下では出演した四つのカンパニーと作品を簡単にご紹介していきます。最初の演目は1991年に設立されたFrontier Dancelandの"A Bygone Devotion; A Present Emotion"でした(写真)。4つの椅子が並べられた舞台、中国語の歌と一緒に登場したのは、黒と白のシンプルな衣装と対照的に、真っ赤なほっぺたや繋がった眉毛、野暮ったい黒縁眼鏡や、かんざしのような髪飾りをつけたコミカルなメイクの5人の中華系ダンサーたち。一見したところ機敏な動きなどできそうにない彼らが徐々にペースアップしていく曲に合わせて軽やかに踊る姿に観客は引き込まれ、満員電車や男女の三角関係など日常生活の一面をこっけいに切り取った振り付けは笑いを誘い、会場の空気も一気に温まりました。アップテンポの後半部分も盛り上がったのですが、個人的には中国色を強く打ち出した静かな前半パートが印象に残りました。

二組目は1988年に設立されたシンガポールで最初のプロバレエ団・Singapore Dance Theatreの"ZIN!"(写真)。体操服のような衣装を纏った美しいダンサー達がカノンに合わせて笛を吹き、運動会の組み体操よろしく次々と複雑なターンやリフトを披露します。華麗で優雅なバレエの印象を吹き飛ばすテンションで繰り出される技法に観客の目はくぎづけ。この演目を先に観てしまったバレエ初心者は、逆に王道の作品で彼らの技を観てみたくなること間違いなしです。しかしこの日の観客はあまりバレエに関心がないのか、作品が古かったためか、身を乗り出して観ていた人も居たのに拍手はまばらでした。

休憩を挟んで三組目はこれまでと打って変わって(日本人にとっては)エキゾチックな雰囲気の漂うMaya Dance Theatre(2006年設立)の"In The Moment"(映像)。細やかな顔の動きや小刻みに足を踏み鳴らすなどインドの伝統舞踊を下敷きにマレー、インド、中華系の男女4人のダンサーが幻想的な世界観を創り出していました。個々の身体が違えば、同じ技法を基盤としていてもこれほど見え方が違うのかと驚きます。

トリはT.H.E Dance Companyの新作、"Accidentally On Purpose"(リハーサル映像)。都会のお洒落なカフェにたむろしてそうな身なりの若い男女が、水の入ったマグカップを手におっかなびっくり対話するような振り付けは、その貧弱さゆえに「いちご世代」と揶揄されるシンガポールの若者の不器用な生き方を再現しているようにも映りました。疾走感あふれる他の3作品と異なり、滑稽さの中にもシリアスなメッセージが込められていて、上演後の会場はこの日一番の拍手に包まれました。

観客の中にはこのプログラムに続けてワークショップに参加する人も何人かおり、パフォーマンスの興奮冷めやらぬまま「今度は2階だ!」と次の会場へ足早に去っていきました。1日しか見ていないので全体的な傾向は分かりませんが、言葉を介さないダンスは外国人でも子どもでも気軽に楽しめる可能性を秘めているはず。今後このフェスティバルがこの国に住む様々な人に向けて、よりオープンな雰囲気で展開していくといいなと感じました。(齋)

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