2012年12月10日月曜日

フランス便り(5)究極の美


皆さんのブログ投稿数が回復しつつあり嬉しいM.Oです。

フランスに来て早1ヶ月。途中風邪にやられながらもなんとかやっています。
日々の小話は色々ありますが、この1ヶ月でまわった文化施設の中で特に印象に残っている展覧会を一つ紹介したいと思います。

David Michalek, Figure Studies
Le Laboratoire

芸術及びデザインと科学の出会いの場として、ハーバード大教授であり作家のDavid Edward氏によって2007年に開館したこのラボ。
15回目の「実験」として現在絶賛公開中なのが、アメリカ人アーティストDavid MichalekのFigure Studiesです。
専ら米軍が使用用途を見出していた当時のハイテク技術「ハイスピードカメラ」をいち早く芸術作品に応用したMichalek。
このカメラでNYCバレエ団員の華麗な動きを撮影した彼の代表作Slow Dancingは世界各地で投影されているので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。
かのEadweard Muybridge(疾走する馬の連続写真)や Etienne-Jule Marey(鳥や人の連続写真) を想起させる彼のヒューマンロコモーションに関する作品は、どこか「科学チック(館内で流れている創作記録ビデオの中で、Michalekは上述の連続写真は実は全く「科学的」ではないが「科学チック(scientificky)」だと表現していました)」な香りが漂います。

今回のFigure Studiesはこの流れを更に展開し、踊りではなく人間の根源的な動きを、美しい衣装をまとったダンサーではなく、老若男女体型など問わずかつ全裸の人々が行う様子が記録されています。
この作品の創作にあたっては、ハーバード大の生物学者Dan Liebermanが人間の基本的な動作(座る、走る、投げる等)をバイオメカニックにカテゴライズし協力、またバレエダンサーでコレオグラファーの女性(名前失念)が振り付けに加わり美的な視点をサポートしています。
ちなみに、Dan Liebermanによると、砂の上を走る時にどのようにバランスをとるのかなど、人間の動きのメカニズムには未だに解明されていない事が沢山あるそうです。

ビデオ作品の場合、作品全てをじっくり鑑賞する人は少ないのではと思います。
かくいう私も、毎回全てを見ているわけではありませんし、どちらかというと何故かいつも時間に追われているタイプなので、苦手な部類の作品と言えるかもしれません。

ところがどっこい、このFigure Studies、 単純な数秒程度の動作が何分もかけて上映されるわけですが、とにかくとても美しかった。
人間は、長きにわたり人体の不思議とその美しさに魅了され、(神話といった体裁をとりつつも)美術作品におけるモチーフという形で昇華させてきました。
とはいえ昨今では、科学技術や生物学の発展に伴い、議論の的は専ら遺伝子レベルに移っていたと言えると思います。
そんなかつての人々の人体への熱い思い(?)が沢山つまったルーブル美術館の脇にひっそりと居を構えるこのラボで、現代の最先端技術と科学を用いて今再び人体の妙を描く作品が展示されるなんて、なんてロマンチックなのだろうか!?と興奮気味の私。
Slow Dancingがバレエダンサーの肉体美と色彩の美を味う作品だとすれば、一糸まとわぬそこらへんにいそうな人達の些細な動きを捉えたFigure Studiesは鑑賞者に様々な発見をもたらしてくれる、非常にポエティックな作品です。

全6つのスクリーンを備えた真っ暗な展示室が一つ、その脇でメイキングビデオと作家のインタビュービデオが流れているだけの小さな空間。

時間が許すならば一日中見ていたいと思えるものでした。
(M.O)

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