2013年5月17日金曜日

桃紅百年

友人に「百まで生きてNHKの『百歳バンザイ!』に出たい!」と豪語しているのがいます。こんな先行きの暗そうな世の中でどうして?とたずねると、「こんな世の中だからこそ、どうなるのかこの目で見たい。好奇心!」との答えです。

そんな友人とお誕生日がちかく、おひつじ座同士の篠田桃紅さんが今年百歳を迎えました。「抽象画家、水墨作家、美術家、書家、エッセイスト、肩書は自分でもよくわからない。」と書いている通り、傍目にはジャンル分けがむずかしいかたですが、「十七、十八歳のころ、甲骨文字の拓本を初めて見て、非常に心惹かれた。」という言葉に表されているように、太古の人がかたちから文字を生み出していく営みに心惹かれ、ずっとかたちへの好奇心から墨による表現を繰り返してきた人とすると、「画家」とか「書家」とかの分類こそが窮屈だなと思わせてくれる存在です。プリミティブで好奇心旺盛、百歳まで筆をとり続けてきた原動力はその姿勢にあるのかなと思います。

今回は、百歳記念ということで各地で開催の篠田桃紅展について報告いたします。

 ■伊勢丹アートギャラリー(3月に開催)

開催期間中、一刻も早く行かなければなりません。なぜならばギャラリーなので、どんどん売れたものがはずされていってしまうのです。私が見ていたときも次から次へと作品が壁から下ろされていきます。景気が良いのか…アベノミクスおそるべし…と思っていたら安倍首相夫妻からのお花が届いていました。オープニングレセプションにはご本人がいらしたそうで、仕事で行けず悔しい思いをしました。

 
■岐阜現代美術館「篠田桃紅 百の譜 19501960s

この美術館は鍋屋バイテックの敷地内にあって、財団法人岐阜現代美術財団が運営する、世界でも有数の篠田桃紅コレクションを持つ美術館です。かねてから行きたいところでしたので、名古屋から名鉄で鵜沼まで行き、そこからタクシーに乗りましたが…遠かったです。山一つ越えてたどりつくと、間違えた入口から入ったので、休日出勤の鍋屋バイテックの社員の方が案内してくれました。特殊ねじなどの機器部品の専門メーカーである鍋屋バイテックは桃紅作品を300点以上所蔵しています。おそろしくおしゃれなオフィスの壁にはあちこちにリトグラフの桃紅作品がかけられていました。

そして美術館にたどりつき、なかなか今まで見たことのなかったニューヨーク滞在時代の作品に出会えました。そんなに大きな展示空間ではなく、展示数も多くはありませんでしたが、じっくりと間近に作品を見られました。入場者は間違って来てしまったらしくすぐに帰って行った家族のほかは、おじさんが一人見ているだけでした。


 ■関市 篠田桃紅美術空間 「篠田桃紅 百の譜 1990-」

こちらは関市の市役所の7階にあります。篠田桃紅の父が岐阜市の出身、関市出身の祖母のもとに育ったことなどから、関市の文化整備事業の一環として篠田桃紅美術空間が設置され、展示が行われています。

以前は多治見からかなり複雑な経路で長良川鉄道に乗ってここに来ましたが、田んぼの中に突如としてそびえたつ関市市役所庁舎が印象的でした。今回は岐阜現代美術館からタクシーで旧市街を通って向かいましたが、タクシー運転手さんいわく、路面電車が廃線になってしまったことで車以外の関市へのアクセスが困難になってしまい、お決まりのごとく有名大手ショッピングモールが完成したのちは旧市街がシャッター商店街になってしまい、かえって市役所と病院があるエリアの田んぼが開拓され、住民移動が始まっているとのことでした。

休日でがらんとしている市役所に到着し、休日入口から会場に向かいましたが、見学者がほかにいません。作品は1990年以降から最近に至るまでの大作ぞろいで、すばらしいです。自分としては人を気にせずじっくり作品鑑賞できるのでありがたい限りですが、ここはどういう経営なのだろうか?と気になったので係の方にたずねてみました。

市長の提案のもと2003年に開設された篠田桃紅美術空間でしたが、「一般にあまり知られていないような」作家の展示に対して市民から批判の声があがったため、市は指定管理者制度によって岐阜現代美術財団に管理運営をまかせ、場所を提供しているだけというのが現状とのことでした(Wikipediaの情報ですが、岐阜現代美術館の開館によって、美術空間は鍋屋バイテック会社のコレクション展示場になっていると関市議会で指摘があり、企業のコレクションに庁舎のフロアを提供、経費負担するのでは市民に説明がつかないとのことで、閉館の危機にさらされていたらしいです)。当日、会場にいらしたのも財団法人のスタッフさんでしたが、百歳ブームでNHK「日曜美術館」で紹介されたり、新聞や雑誌などの報道で、ようやく市民にも理解が広がり、見学者も増えているとのことでした。

私のようなファンにとっては、篠田桃紅美術空間は個人コレクターに私蔵されてしまいがちでなかなか見られない桃紅作品に出会えるとても貴重なところで、近ければ毎週でも通いたいくらいですが、市民にとってのそこはまた別の意味を持っているのでした。しかしながら、桃紅コレクションを充実させ、庁舎の美術空間への批判が起これば財団による管理体制に移行しすべての運営を引き受け、展示を続けている鍋屋バイテックはすばらしい企業だなと思うのでした。
 

 

■菊池寛実記念 智美術館「百の記念 篠田桃紅の墨象展」

こちらは東京虎ノ門です。526日(日)まで開催ですので、みなさまも是非ご覧になってみてください。私はこれからなのですが、百歳まで生きたい友人に声をかけようかな~と考えています。

                        ※文中引用は『桃紅百年』世界文化社より    (Mube)               

       

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