2013年1月26日土曜日

フランス便り(12)二つの雨傘


先日、特に理由は無いですが「しあわせの雨傘」を観ました、M.Oです。
観ながらふと、主演の二人は年末のフランスを騒がせた著名人フランス国籍放棄問題でも色々とあったなぁと思い、今回のフランス便りは施設紹介をお休みしこの問題を切り口にフランス映画界などについて少し触れてみたいと思います。

世に言う「ドパルデュー事件」、日本でも話題になったかと思いますが、概要は以下の通りです。
そもそもの発端はフランスの大物俳優ジェラール・ドパルデューが重税(2013年度予算で高額所得者に対する所得の75%の課税方針が決定)を理由にフランス国籍を捨て、ベルギーへの移住を希望、のちプーチン大統領の介入により特例的にロシアのパスポートを取得したことにあります。
この件を通じて自国の寛容性をアピールし文化面でのプレゼンス獲得をしたいロシアからは住居や文化大臣のポストまでプレゼントされる歓迎ぶり。
一方フランス本国では、財政再建は同性愛婚許可と同様、中道左派社会党政権の行く末を占う上で「目玉」であっただけに大きく取り上げられ、この論争によってドパルデュー以外にも重税逃れのため海外移住を希望する著名人がいる事が発覚しました。
また映画界からは、ドパルデュー批判派のフィリップ・トレトンVSドパルデューと親交の深いカトリーヌ・ドヌーブの紙面上での論争が勃発。ちなみに、トレトン・ドヌーヴ論争に対する同業者の反応は概ね、フランス映画界に長年君臨するドパルデューにおもねる内容だったそうです。
それに乗じて現在は動物愛護家として活動するブリジット・バルドーが動物園での安楽死に反対しロシア移住に言及する始末。
終盤のどたばたには国民もさすがにあきれ顔でしたが、この不況の中フランスの行く末を不安視する声があがっていました。

さて、「文化的特例」大国フランスでは、映画製作に国から補助金が出る他、テレビ局には一定額の映画製作への出資が課せられています。テレビ局の介入が放映時の視聴率を鑑みた売れっ子スターの起用を促しギャラ高騰を招くという批判が出る程、フランス映画は制作費・ギャラと興行収入の割合が不均衡だとされ、その事が逆説的に、現行のフランス映画援助システムを擁護する方向へ繋がっている様です。
映画はフランス国民にとって一大娯楽(映画鑑賞のリーズナブルさは観る側にとっては嬉しい限り)であるだけに、手厚い助成システムにメスが入る事は当分なさそうです。


ところで、「しあわせの雨傘」という和題だけ聞くと、まるで「シェルブールの雨傘」の続編かの様ですが、原題はpotiche(お飾り)。
個人的には、「作品への介入」である和題というシステム自体に抵抗感があります。吹き替えもまた然り。
映画は芸術であると同時に産業であり興行でもあるので、そういうものとして捉えるべきなのでしょうが。。。

(M.O)

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