2013年7月31日水曜日

美術館にキレた話 ―常呂レポート2―

 美術館や博物館の歴史、社会における機能などを意識するようになってから、日本各地の博物館施設を訪れることを研究と趣味半々のモチベーションで続けています。訪れる博物館の種類としては、文部科学省が行っている社会教育調査(博物館,博物館類似施設)の調査対象である総合博物館、歴史博物館、美術博物館、科学博物館、野外博物館、それから動物園、植物園、水族館、動植物園を主な対象として考えています。ここに公民館や図書館、劇場や文化ホール、ギャラリーや画廊、公園や庭園、科学館、遊園地、テーマパーク、サファリパークなどが含まれるかどうかという問題は非常に微妙かつ巧妙で面白いんですがまあそれは置いといてですね。そのように全国の施設を回っている中でかつて一度だけある美術館にめちゃくちゃ腹が立った経験があり、時々思い出しては再び腹を立てたり反省したり考察したりしている事例がありますのでこの場を借りてみなさんと共有してみたいと思います。もしよければコメントなどいただけるとありがたいです。
 一応実名を出さず某美術館ということにしておきます。2010年の夏、バックパッカーで全国の美術館・博物館を巡る一人旅を敢行し、その行程でその美術館を訪れました。割と最近の開館で、大胆かつ斬新な建築や目玉のひとつである屋外展示作品などで当時そこそこ話題になっていた美術館です。
 イラっときたポイントその1、入口がわかりにくい。
 真夏の炎天下はるばるやってきたバックパッカー(志)はとにかく早くクーラーの効いた涼しい屋内に入りたかったわけですが、斬新な建築に一瞬感嘆の声を上げ写真を数枚撮ってさあ入ろうとしたところ入口がわからない。近年の有名建築家が設計する大型施設にはよくある困った話のひとつですが、デザインやコンセプトを重視しすぎたあまり実用的な設備の機能性が阻害されるというよくある困った話がここでも起こっていました。数分ウロウロしようやく入口を見つけたわけですが、まあわかりにくかったですね。せっかく来たけど入口の入り方がよくわからなくて諦めて帰ってしまう人が少なからず出てもおかしくない現代建築の特徴のひとつに早速気分を害されました。汗ダラダラなのに。
 イラっときたポイントその2、チケット購入の分かりにくさと強制的な荷物預け。
 入口をウィーンと入って左手に受付カウンターがあったので「学生一枚ください」と告げたところこちらは案内カウンターでしてチケット購入はあっちのエレベーターを降りてあっちに曲がってこっちに曲がって3回まわってワンみたいな対応をされイラっときました。ここで買わせろや。さらにこのカウンターでは僕の背負っていたリュックサックを有無を言わさず預かると言ってきました。その旅行中はとにかく時間巻き巻きで各地の館が空いている時間のうちに回れるだけ回ろうという気持ちで回っていましたので荷物もまず預けることなく回っていたしそれで注意されることも皆無でしたが、「作品に当たると困るので」的な理由を言われまあそうかな、確かに展示室が狭かったら危ないよなとその場は(しぶしぶ)納得し荷物を預け展示会場へ向かいました。するとどうでしょう、なんと展示室は日本一といってもいいくらいめっちゃくちゃに広いのです。いくつもある展示室のひとつひとつが小学校の体育館くらいの広さ、とでも言えばわかりやすいでしょうか。とにかく、展示作品に夢中になっていようが少々お客さんで混み合っていようが背中に背負ったリュックサックで背後の展示ケースにぶつかるような距離感では全くないのです。は?これリュック預ける必要ねーじゃん。小さくても頑張ってるほかの館を馬鹿にしてんのか?などなどとイライラがつのりました。
 イラっときたポイントその3、順路がわかりにくい。
 展示室内の順路がわかりにくいのはさほど問題ではないと思います。あえて順路を決めず自由に見てもらう順路設定の仕方があることも十分承知していますから、そんなことでは怒りません。ただ、先ほどの受付カウンターとチケットカウンターが違う階にあるとか、違う階に行くにはめちゃくちゃわかりにくい移動をしなければならないとか、目玉である屋外展示を見に行くにもこれはバックヤードか?と思われるほどごちゃごちゃした迷路のような通路(しかも屋外だからめちゃくちゃ暑い)を通らなければいけないなど、来館者を混乱させる仕掛けが随所に見られイラ立ちました。エレベーターで同乗したご婦人方も「わかりにくいわねえ」などとご不満を述べておられましたし、お年寄りや車椅子の方などにもごちゃごちゃしてわかりにくくひたすら長い移動を強いている建築構造になっていたわけです。
 イラっときたポイントその4、完全なる監視。
 これがこの美術館に最もイラ立ったポイントかもしれません。展示室ってボランティアとか専門業者の人とかがやってる監視スタッフがいますよね。この美術館にも当然いたしまあいること自体は全然問題ないんですがね、その配置がですね、要するに“一切の死角がない監視員の配置”だったんですよ。展示室や廊下のどこにいようと必ずどこかの監視員の視界に入る配置になっているんです。これ、作品管理や防犯上は最も効率的で良いのかもしれませんが、ゆっくりと誰にも邪魔されず作品を鑑賞したいなあと思っている来館者にはめっちゃくちゃストレスなんです。作品と向き合いながら自分のペースで見たいじゃないですか、でもそれを常に誰かに監視されてたらどう感じますか?めちゃくちゃ視線が気になって全然作品鑑賞に集中できないんですよね。昔、こういう形の部屋のどことどこに監視カメラを設置したら最も少ない数で全体を監視できるでしょうかみたいなパズルゲームをやった記憶がありますが、まさにそのゲームの正解みたいな監視員の配置で、全く心安く作品を鑑賞することができませんでした。

 すべての展示を見たあと、イライラがピークに達していた僕はチケットカウンターに用意されていたアンケート用紙をむしるように奪い取り、印刷された小さな文字たちを完全無視し思いの丈を用紙全体にガンガン書きまくって真っ黒にした挙句、最後に「フーコーを読め。全員。」と巨大な文字で書きなぐったアンケート用紙を般若のような顔で回収ボックスにスラムダンクしてきました。

 その監視員の配置を決めたのは監視員をやってる方々その人ではないはずなので監視員の皆さんに罪はないですし、全員がフーコーを読み理解できるわけではないことも分かっています(そもそもパノプティコンの考案者はフーコーじゃなくベンサムだし)。ただ、美術館を訪れてここまで怒りに駆られた経験は初めてだったので、少しでも館側に伝えなくてはととった行動が殴り書きのアンケートだったのでした。
 少し大人気無かったかなと後になって反省することもなくはないですが、熱意のあるアンケート用紙1枚が実は大きな力を持つということもわかってきている今の僕の理解で、僕のとったあの行動が少しでも館運営の改善につながり、イラ立つ来館者をひとりでも減らすことができるなら良かったのでは、と納得することも多いのです。

 初来訪以来その美術館を再び訪れる機会には恵まれていませんが、あれから何か変わったのか、あるいは何も変わっていないのか、次回訪れる際にはじっくりと見極めて来たいと思っています。

 と、いうことを常呂滞在中に博物館網走監獄を見学した時に思い出したのでここに書いてみました。

 常呂レポートその2でした。


 (志)

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