2014年9月1日月曜日

インプロビゼーションのまち 台北

  M2 Muhiです。台湾合宿、無事終了で何よりでした。企画・運営担当のM1の方々、おつかれさまでした。特にすばらしいアテンド、通訳をしてくださったAさん、Sさん、本当にありがとうございました。

今回の合宿で考えたことは以下のようなことでした。このブログより前に投稿してくださった方々と対象が重なってしまうのですが、あと数時間後にドイツ出発を控えているため(汗)、そのまま掲載です。ご容赦を。

 ◆違法建築と老人とアート 宝蔵巌国際芸術村
超絶技法の数々。過去の地震にも全壊はしなかったそうですが、修復は加えているとのこと。
 

刺激的な文化政策を展開している台湾なので、今回もたくさんの試みを見学することができましたが、「宝蔵巌国際芸術村」が印象的でした。水源地帯、お寺、台北からあふれた労働者のたまり場、日本軍の軍事倉庫、違法建築…という根源と辺境が交錯する場所に対し、新たな芸術エリアとして再生を図ったことは、歴史の必然性さえ感じさせてくれました。

アート作品もですが、それ以前の違法建築の技法に目が行ってしまいました。アシンメトリーに交錯する建造物の作りだす空間は圧巻です。なんでこんな難しそうな傾斜地の地形に建築物が次々と建てられたのか?究極のDIY空間だ!と騒いでいると、「ガテン系の住民が現場で習得した技術を駆使したんですかね?」とOさんが推測してくれれば、建築に詳しいTさんは「鉄筋も無く、レンガを積み上げコンクリで固める技はありえない!!」と感嘆しています。よく見れば石垣の石組みも場所によって同一パターンではありません。規格外意匠、超絶技法に目が釘づけです。

 そして案内してくださった張玉漢さんの説明を聞くとき、われわれはアートエリアとは区別されたレジデンスエリアの広場に集まったのですが、ちょうど横では住民である老人の方々が三々五々に集まり、週末の夕食の準備を野外キッチンで始めていました。ちらちらと見ると、単一の老人カップルだけではなく、男女入り混じった方々がテーブル周りに集まってきます(「あれぐらいになると男女の恋愛のごちゃごちゃもないだろうね」とはIさんの談ですが、そればかりはわかりません)。
こちらは芸術村について質疑応答を交わしていますが、異邦人たちのやりとりを面白そうに老人たちも見ています。この老人たちがあの違法建築をつくったのかな?と思うと断然興味がわきます。お酒を飲み始めるおじいさんもいれば、調理に専念する少し若手の男子老人もあり、大量のニンニクを刻むおばあさんもあり、着々と食事の準備は整っていきます。老人たちだけで自活しているらしい様子がうかがえました。

名所における「住民と観光客被害」という永遠のテーマはここでも同じようにありつつも、エリアを区別することで対処していると台湾藝術大学の大学院生も教えてくれました。しかし観光客がうるさい以上に、もしかしたらここの地域的、歴史的に孤立した地区の老人にとって、アート目指して有象無象の人々(若いカップルが多い)がやってくることはちょっとした楽しみでもあり、ああ、そんな老後も面白かろうと、拝見していました。

すでに各地開催のアートプロジェクトやアートイベントで、同様の効果は語られているとは思いますが、マージナルなものづくめのこの地区にこういったプロジェクトを立ち上げた方の慧眼ぶりはやはりすごいと思いました。もともと地区にあった生活全般にわたるDIY精神(それは必死なDIYであったかと思うのですが)がアートプロジェクトと合致した印象を受けました。

 
◆自立する犬たち

台北では飼い犬は紐もつけられず町を歩いています。かといって吠えたりもせず、人にかみついたりもせず、対面の人間と目を合わせながら自分の進路をしっかり進んでいきます。Iさんは犬が「どうぞお構いなく。私はしっかり歩いていますから」って思っているみたいと評していましたが、言い得て妙だなと思いました。

昨年のゼミではジェイン・ジェイコブズの『発展する地域 衰退する地域』を講読しましたが、ここ台北は「発展する地域」として、外来の技術を輸入するだけでなく、輸入置換して、インプロビゼーションし、イノベーションを絶えず起こし続けていく特性が指摘されていました。ゼミではもう30年前の著作でもあり、経済学者でもないジェイコブズが言うことが今さらどうなのかといった一部批判もありましたが、改めて今回の訪問は、台北のインプロビゼーションの数々を目の当たりにした気がしました。

文化政策においても、日本をはじめとした海外の文化政策を取り入れつつ、前例の失敗を分析し、さらなる進歩に向けて取捨選択を行っています。容積率の規制と緩和など、日本が失敗し歴史的建造物の保全に至らず開発主眼となった歴史とは対照的に、段階を踏んで開発と保全の調和を探っていたことはまさにインプロビゼーションだなと思いました。ただの追従でなく、よりよき方向に向かう姿勢はどこから生まれて来るものなのでしょうか?

日本に帰ると、訓練されて吠えることをしない盲導犬の着衣の下を数カ所にわたり傷つけ、目の見えない飼い主にも犯行がわからなかったというひどいニュースを聞きました。放し飼いにされた犬が他人に咬みつき裁判になったり、咬みつかれた人を飼い主が放置して死なせてしまった事件なども日本にはありました。犬は人間社会に密着して生きている動物です。単純な比較はいけないですが、犬にまつわることは人間社会のある種の反映でもあるように思え、かつてジェイコブズによってインプロビゼーションが起こっている地域として取りあげられた台湾と日本、マインドの点において、今はどうなのかなと思うところがありました。

「海外に行くということは日本人を知ること」と言われたりしますが、台北において文脈を違えながらも日本と同じような政策が導入され具現化した事例から、逆照射される要素を知ることで、私たちが学ぶことは多かったです。この合宿の経験が冬学期のゼミ活動に活かされるといいなと思っています。

 


SARS治療の様子がモチーフに。伝道は現在につながっています。
追記:個人的には偶然にもキリスト教長老派マッケイ児童医院(細川たかしの広告が大きく出ていたCDショップの斜め向かいにありました)のモザイク壁画が見られてよかったです。帰って自分の研究の資料を読んでいると、マッケイはカナダの宣教師で、日本への宣教に先駆けて台北に渡り伝道に従事したという記述に出会いました。近年のSARS治療のモチーフなどをふくめながら過去から現代に至る台湾での宣教の足跡をモザイク壁画は語っていました。                                          
 
                                                  (Muhi

 

 

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