2013年9月8日日曜日

地域主権を志向する(韓国フィールドワークで考えたこと)


昨年度から東京大学で実施している体験プログラムを私も実施してみることにしました。実は、最初はドイツに連れて行き、ヨーロッパにおける劇場や美術館の運営に目を向けてみるというのを考えていたのですが、昨年度、お隣の国の韓国で行う体験プログラムがなかったということを聞き、急遽韓国でフィールドワークをするということを企画しました。それが実現できたのも、博士課程のLさんと、昨年度博士課程を単位取得退学したT君の存在が大きかったです。二人には心から感謝するとともに、二人をとても誇らしく思います。本当にありがとう。二人の積極的に企画提案とサポートがどれほど充実したプログラムとして結実したかということについては参加者が書いてくれることを期待して、私は今回のプログラムで考えさせられたことを書きたいと思います。

今回、様々な文化政策の現場、文化でまちづくりを行う現場を見せてもらったわけです。その一環として、ソウル文化財団と釜山文化財団を訪れました。両者ともに、着実に文化財団の位置づけと文化政策の実践に大きな役割を果たしていることがわかりました。ソウル文化財団の説明と案内は、6月の文化経済学会<日本>の年次大会でもご招待申し上げたKさんでした。ソウル文化財団での説明を伺ったあとに、財団が支援しているプロジェクトを見るのにもつきあってくださいました。彼は、東京でお話を伺った際に、現在博士論文を準備中だということを聞きました。あんなに忙しい中で博士論文を準備しているのには、頭が下がります。また釜山文化財団では、日本に博士論文の執筆で1年間滞在して勉強したCさんが、釜山文化財団の取り組みの説明をしてくださった上、今回のプログラムの最後の晩餐をすてきなお刺身料理レストランをご紹介いただき、おつきあいもいただきました。

日本語が達者なCさんの説明は、「日本の文化財団は、文化会館の運営のために作られた文化財団であって公演を行うことにエネルギーを取られすぎており、地域の文化振興を本当に行っているのか」という問題提起をされました。彼は、日本全国の文化財団を積極的に回って、日本の文化財団が陥っている問題を発見した上で、「反面教師」にし、釜山文化座員団のあり方を考えたということを言っていました。実際、釜山文化財団の取り組みを聞いたときに、最初に私が述べた感想は「まさにこれはアーツカウンシルですね」というものであり、「本来」文化財団が取り組むべき内容が展開されていることに驚きを禁じ得ませんでした。たしかにソウル文化財団も釜山文化財団も、基本的には大型の文化施設は保有しておらず(ソウル文化財団はチョンゲチョン文化博物館を持ってはいるが)、プロジェクト型の施設を持つのみです。それゆえに、施設を「管理運営」しなければならないという呪縛から逃れているということがいえるかと思います。ただ日本も、指定管理者制度が導入されることにより、文化財団は、たんに施設を管理運営すればいいということではなくなったことを考えると、改めて文化財団の役割が問い直されてくるわけです。それはすでにこれまでにも様々なところで指摘されてきたことではありますが、その先を行く解答を韓国は見つけて行っているということに、うらやましさを感じたということです。韓国は日本のいいところも悪いところも、すごく勉強しているというのを実感しました。

ところで、昨日地域創造のステージラボの一コマを依頼されて、話をしてきました。テーマは、「国の文化行政(文化庁)からの視点〜地域主権時代を見据えた公共劇場運営の今後」というもので、これはコーディネーターの方からお願いされた内容なのですが、葛藤が生じるような方向性を話さなければならないことになりました。その中でアーツカウンシルの問題も話しました。私は、アーツカウンシルというのは、思想としてのアーツカウンシル、名称としてのアーツカウンシル、機能としてのアーツカウンシルがあり、これらの区別なく使われている状態に、疑問を感じてきましたが、韓国での文化財団はまさにこの機能としてのアーツカウンシルを目指しているということを見てきたことになるかと思います。釜山は韓国の第二の都市としてまさに地域主権主義で活動してこうとしており、それを積極的に推し進めていくためには、まだ新たな制度的枠組みを必要とするようでした。それはさらに授業で話していきましょう。

もう一つ、前述したように、Kさんは現在博士論文執筆中、Cさんはすでに博士号を持っていらっしゃいます。日本の場合は、現場で働いていた人も、博士号を取ると大学などの研究者になってしまい現場を離れることが多いように思います。それは現場で働き続けられられない理由があるのだと思いますが、本人のパーソナリティの問題もあるかと思います。博士論文を執筆する際に得られた知見で、現場の変革のために尽力をするお二人を見ていて社会に還元するということの意味を改めて感じましたし、韓国の力強さを改めて感じました。また私たちの所属している文化資源学研究専攻は、社会への還元を重視している専攻であることを思い起こさせました。

釜山文化財団が現在力を入れている事業は「朝鮮通信使」を通じた、文化交流のプログラムです。現在、韓日はこれまでにないほどぎくしゃくしている関係だと一般には報道されています。それを、文化を通じて改善できると信じて事業を展開しているCさんを、私は同じ人間として誇らしく思いました。

M.K

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