2013年2月20日水曜日

2013年2月のフランス便り(3)― マルセイユ=プロヴァンス2013欧州文化首都


 M1のみなさん、文化資源学フォーラムお疲れさまでした。そして大成功とのこと!おめでとうございます。

 土曜日、私はマルセイユに向かっていました。欧州文化首都(Capitale Européenne de la Culture / European Capital of Culture)は、EU加盟国内の都市を毎年選定し、そこで一年間にわたって集中的に文化プログラムを展開する事業。1989年のパリ、2000年のアヴィニョン、2004年のリールに続き、マルセイユ=プロヴァンス地域(プロヴァンス地域圏内のマルセイユを中心とした複数の都市圏の連合体)がフランスで2013年の「首都」となりました。オープニング・イベントでは、約40万人が開幕を盛大に祝ったと報道されています(1月15日付ル・モンド紙)。ところが実際に足を運んでみるとマルセイユ中心部はまだ工事現場だらけ。イベントなども夏が本番のようです。


 この週末のマルセイユ=プロヴァンス地方は青い海と青い空がうつくしい快晴で、コートもいらない暖かさでした。

二日間の滞在で見たのは、

J1の<Méditerranées>(地中海世界展)
マルセイユ港湾局提供の倉庫を文化首都に向けて整備した「J1」は、広大な展示スペースと複数のギャラリー、書店、カフェなどがある出入り自由のパブリック・スペース。地中海への視界が開ける新スポットは、港湾地区に人の流れを呼び込む仕掛けのようです。メイン展示は「地中海人」のアイデンティティを喚起する<Méditerranées>(地中海=複数)。オデュッセイアの漂流のように、トロイ、カルタゴ、アテネ、アレクサンドリア、ローマ、アンダルシア、ヴェニス、ジェノヴァ、イスタンブール、アルジェ、チュニスの古代と現代を展示物と映像で経験し、ふたたびマルセイユの現実にもどる趣向です。展示の向こうのガラスごしに本物の地中海が広がっているのが妙所で、「マルセイユはパリではなく地中海をみているのだ」と宣言するかのような展覧会でした。



Friche de Belle de Maiの現代美術展<Ici, ailleurs>(ここ、他所)
会場はBelle de Mai 地区のFriche(“荒れ地”)。閉鎖された煙草工場は、地元劇団の占拠によって90年代にレジデント・アーティストの活動の場に生まれ変わりました。選ばれた約40人の地中海世界出身作家の作品展示は、建物屋上から市街と地中海を一望できるパノラマ・ツアーつき。



<Matamore>
Friche中庭のテントで上演された移動サーカスは、1月から2月にかけてのひと月に50演目が延べ200回も上演される<Cirque en Capitales>の一環としてのプログラム。この日は満員御礼だったので、開演直前まで待ってキャンセル券を入手して見ました。でも、観客の熱狂ぶりに私は今ひとつついていけなかった。

カンティニ美術館の<Matta>展
数年にわたった改装工事が完了し、この週末にリニューアル・オープンしたマルセイユ中心部のカンティニ美術館で開催中のチリ出身のシュルレアリスト、マッタ(1911-2002)の大規模な展覧会。異文化のなかで生きることで自己を確立し、戦争、内戦、植民地問題、学生運動などの同時代史に対峙しながら創作した画家の発言もちりばめられて、たいへん興味深かったです。

そして、バスで30分ほどのエクサンプロヴァンスで
<L’art en endroit> (場のアート)
作品と設置場所のコンテクストが互いに響き合うことが意図されたアート・プロジェクト。表玄関の大噴水から伸びる並木を覆う草間彌生の水玉模様がメインストリートの表情を一変させていました。地図をみながら10数か所の作品をめぐる散歩の第一の魅力はエックスの街のさまざまな表情に出会うこと。週末限定で作品の傍らに立ち、訪問客と対話するメディアトゥール(médiateurs – 直訳だと仲介者)の多くは大学で文化メディエーションや美術史を専攻した若い女性で、質問すると自分の見解で応えてくれました。




 欧州文化首都2013年のシンボル的存在、マルセイユの「ヨーロッパ・地中海文明博物館MuCEM」(le musée des Civilisations de l'Europe et de la Méditerranée)は六月開館予定だそうで、Rudy Ricciottiによる斬新な建築が港のサン・ジャン要塞と空中歩道で結ばれてその姿を表わしたところでした。自然史博物館、美術館、天文台がある19世紀建築ロンシャン宮(Palais Longchamps)の修復工事完了も初夏になるようです。


 四月には音楽イベントも始まり、続いて六都市で大道芸(街頭演劇的なarts de la rueの日本語がこれでよいのかは迷うところ)イベントもさかんに繰り広げられるそう。プロヴァンスの夏には、もともとエクサンプロヴァンス音楽祭やロックダンテロン音楽祭などもあり、おおいに賑わうことでしょう。

 現地を見て、今回の文化首都の顕著な特徴は、複数都市圏の連合プロジェクトでありながら巨大設備投資がマルセイユに集中していることではないかと感じました。植民地政策とともに経済発展を遂げ、その終焉後に多様な文化的背景をもつ人々を受け入れ、21世紀には地中海世界の中心を標榜しつつ国やEUの政策を引き寄せて公共事業を呼び込むたくましい港湾都市。

 「J1」は2004年欧州文化首都でリール駅近くに誕生した郵便物区分所の転用によるアートセンター「Tri Postale」に倣ったとのこと。その後リールでは活動を永続させるアソシアシオンが結成され、欧州文化首都から10年ほどを経た現在、都市のアート・シーンはますます活性化しています。マルセイユ=プロヴァンス欧州文化首都の真価が問われるのも、実は祭りのあとなのかも知れません。

(ykn)

2 件のコメント:

  1. yknさん、欧州文化首都についてご報告頂きありがとうございます。
    地域圏での選出という事で関心を持っていたのですが、やはりマルセイユに集中しているのですね。
    個人的には、南仏、とくにマルセイユとニースはバカンスの喧噪と惰性の骨頂というか、なんだか精神まで溶けてしまいそうであまり足が向かないのですが(失敬)、エックスは大好きです。
    人が朗らかで、街も美しく、あたたかみがある感じがします。企画されているお散歩イベントもエックスにぴったりですね。
    そしてあのメインストリートに草間さんのドットが!?
    写真是非拝見したいです!
    (M.O)

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  2. コメントありがとうございます。
    写真お待たせしました。
    私は反対に南仏が大好きで、TGVの車窓から石灰岩の山やテラコッタ屋根の集落が見えてくるとつくづく懐かしくうれしくなってくるほうです。ですが、マルセイユは長い間なんとなく敬遠していて、調査のために足を運ぶようになったのは最近のことです。訪れるたびに奥深くたくましい都市だなと感じます。

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