2012年10月29日月曜日

Gillman Barracks:シンガポールにオープンした現代美術の拠点

はじめまして、小林ゼミOGの齋藤(旧姓・豊田)です。
家族の仕事の関係で1年半ほど前からシンガポールに住んでいます。

みなさんはシンガポールといえば、どんなものを思い浮かべますか?マーライオンや奇抜なデザインの高層ビル、罰金大国などなど、様々なイメージが浮かんでくる(もしくは浮かんでこない?)かと思いますが、ゼミブログを通してそんなシンガポールの様子を住民目線でお伝えできたらと考えています。

今回は、先月15日にオープンしたばかりの現代美術の拠点、Gillman Barracksをご紹介します。ビエンナーレに国際アートフェアArt Stage Singaporeの開催、Singapore Free Port(空港にある免税の美術品専用倉庫兼見本市会場)の整備など、あまりに急速な発展に、国民も我々外国人も置いてけぼり気味なシンガポールのアートシーン。世界各地から有名ギャラリストやコレクターをひきつけ、現代美術界でも世界のハブを目指すこの国に、また一つ新しいアートスポットができました。

Gillman Barracksは1930年代、イギリス軍の指揮官Webb Gillmanの名にちなんでに建設された軍用地。第二次世界大戦中には日本軍との激戦地にもなったそうですが、この度、シンガポール経済開発庁( Economic Development Board)と国家芸術庁(National Arts Council)、ジュロン・タウン公社(Jurong Town Corporation)の開発によりアジアと欧米の13の著名なギャラリーが入居する現代美術の発信地として生まれ変わったのです。(日本からは小山登美夫ギャラリー等が進出)

オープンを記念してNPOによるガイドツアーが行われているということで、さっそく参加してきました。Gillman Barracksは中心市街地からは少し離れた場所にあり、最寄りのバス停からも見つけにくい佇まいをしているのですが、生い茂る椰子の木を恐れずに直進すると看板が目に入ります。(看板や公式サイトに見られるGillman Barracksのロゴはバラック建築に特徴的なアーチをモチーフにしているとのこと)敷地内にはギャラリーや飲食店が入居する15棟のバラック建築が点在しており、小さな芸術村といった様相。炎天下を歩き回るには中々ハードな広さなので、夕方の涼しい時間帯の訪問をお勧めします。(ギャラリーは平日は夜8時まで、飲食店は11時までオープン) 

美しくリノベーションされたバラック建築は作品を集中して鑑賞するホワイトボックスとしては贅沢な空間ですが、その分、未知との遭遇というワクワク感は少し物足りない気がしました。2013年には同敷地内に世界各国のアーティストが滞在制作を行い、南洋理工大学(Nanyang Technological University)と協同で現代美術の調査研究も行われる現代美術センター(Centre for Contemporary Art)がオープンするとのこと。ガイドさんによると年間20組ものアーティストが滞在し、展覧会で続々と作品を発表していくそうなので、混沌とした制作現場はこちらに期待したいと思います。

参加したガイドツアーは展示作品の解説がメインでしたが、初めてこの場所を訪れた者としてはその歴史が気になるところ。シンガポール国立図書館の資料によると、Gillman Barracksは軍用地としての役割を終えた後、1990年代に豊かな自然と歴史的建造物の魅力を活かした商業施設として再開発が行われたそうです。しかし施設の人気は思うように伸びず、都市開発庁(Urban Redevelopment Authority)は2002年、シンガポールの歴史地区の保存・活性化を目指すアイデンティティ計画の一環としてGillman Barracksの再開発を決定。国民が古い建物の解体と新しいビルの建築を望む中、政府は植民地時代の面影を残すバラック建築の保存を譲らず、2010年から芸術とクリエイティブ産業の拠点として整備が始まったのでした。Gillman Barracksが単なるアートの商業施設に終わらず、 シンガポールならではの歴史とアイデンティティという付加価値を持った場所となれるかどうか、今後の活動に注目していきたいと思います。

大盛況のギャラリー!と履いていたサンダルを脱ごうとする私たちに「これは作品です」とツアーガイドさん。果たしてGillman Barracksに本物のシンガポーリアンの履物が脱ぎ散らかされる日は来るのでしょうか…。EQUATOR ART PROJECTS(http://www.eqproj.com/)にて。肝心のバラック建築は塗り替えられた白壁の眩しさのあまり写真を撮り忘れてしまったので下記公式ホームページをご参照ください。 

■参考■
Gillman Barracks http://www.gillmanbarracks.com
Gillman Barracksの歴史(シンガポール国立図書館)http://infopedia.nl.sg/articles/SIP_1395_2008-12-06.html 
Art Stage Singapore http://www.artstagesingapore.com/ 
SingaporeFreeport http://www.singaporefreeport.com/ 
Art Outreach(ガイドツアーを実施しているNPO) http://www.artoutreachsingapore.org/ 


今後も、刻々と変化するシンガポールの芸術文化の現場や 多文化・多民族国家ならではの発見など、みなさんと情報共有できればと思っています。 シンガポールのここが気になる!という疑問、リクエスト等ございましたら是非お知らせください。どうぞよろしくお願いします。

(齋藤梨津子)

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