2012年8月3日金曜日

2012年6月 バーゼルアートフェア、ドクメンタ13とドイツ各地の訪問記 3

6月14日から21日まで1週間、世界最大のアートフェアが行われているスイスのバーゼル、世界で最も有名な現代美術の展覧会の一つであるドクメンタが行われているドイツのカッセルなど、6都市を周りました。

視覚美術を中心に見てきたこの旅を何回かにわけて、文化経営的な視点からの話を織り交ぜつつ、日記風に振り返っていきたいと思います。(TS)

第3回目は、初日・バーゼルでお昼を食べた後向かった、バーゼルアートフェア(Art|Basel)の会場です。(リンク先のサイトは既に来年の予告に更新されています)




メイン会場の手前に、SCHAULAGER(前回紹介したEmanuel Hoffman Foundationの倉庫とビューイングルームを兼ねたスペース)の改装にともなう、一時的なサテライト施設があります。一時的なサテライトといってもそこはバーゼル。素材や工法が仮設なだけで、実際はメイン会場のファサードを占拠して新たな現代建築が建っているという風情です。
ここでユニークなのは、並んでいる水槽のような箱の中に1つずつ、過去の展示の際に出た廃材や端材、小さな作品などを混ぜてミニ・ジオラマのようなインスタレーションをしていることです。つまり過去に開催した展覧会のアーカイブをこうした形で見せているのです。同行者は、その中で以前観た展覧会を発見して大いに楽しんでいました。
改装に伴って閉館しているにも関わらず、こうしてミュージアムの業績とそのコレクションを見た目にも楽しく展示することでプレゼンスを保っているということに感心しました。ついでに言えば、この場所の下の階段状のスペースはビジター向けの無料休憩所も兼ねており、映像の上映を行っていますが、無料のWi-Fiスポットとしても使えるようにもなっていました。

バーゼルアートフェアのメイン会場自体も増築中でした。おかげで前の道路は車もろくに通れず、歩道も狭く、路面電車もはみ出た人を轢かないようにゆっくりしか通れない有様でした。が、来年予定通り改装が完成すれば、また快適になるでしょう。
ちなみにこの増築を手がけるヘルツォーク・デ・ムーロンの2人もバーゼル出身で、1978年以来ずっと事務所もバーゼルです)。
建設現場のウェブカメラはこちら。 静止画ですが雰囲気が伝わると思います。おそらく完成後は、最近の大規模建築で流行の「建築工事早回し映像」なども見られるのでしょう。(と思ったら、途中で既に公開されてました。 )

1954年にチューリヒの建築教授Hans Hoffmannの設計で建てられたメイン会場「ホール2」は古びてはいますが(2008年より、歴史的建造物のリストに入っています)、近年インフラ周りの改装が進んでいます。中に入ってみると実際のサイズよりも広く感じる、一辺145メーターの正方形の3階建てで、中央部に直径44メートルの円筒形の吹き抜けがある形をしています。トータルの床面積は44000平米。アートフェア東京よりかなり広いのですが、天井高も高すぎず、自然光が使える場所も結構あるため、小さめの作品の展示はしやすそうでした。

会期の前半分ほどは招待者しか入場できません。一般会期中でも招待者には様々な優遇があり、チケットに並ぶ必要がないだけではなく、最上階のラウンジや送迎の車なども使えるようでした。

さて、いよいよ中に入ります。行ったのは一般入場日の初日でしたが、日本のアートフェアと同じく、良さそうだなと思う作品で小さめの物はよく売れているようでした。当たり前ですが、様々な形態の作品があります。映像・動画は事前に予想していたよりも少なかったのですが(後でわかるのですが、そうしたプロジェクトはメイン会場ではなくArt Unlimitedの方に多くありました)、彫刻やインスタレーションが数多くありました。
写真を扱うギャラリーも多いのですが、写真については絵画や版画以上に素人で、文脈がわからず、難しい印象があります。個人的には1点物の作品を自分が持つというのはあまり魅力を感じないので、版画や鋳物のような複製物の方が欲しいタイプなのですが、写真については勉強不足で、現実を切り取るメディア、あるいはせいぜい自己言及メディアとしての写真、といった見方くらいしか身についていないことに気づき、写真史を勉強する必要を感じました。
そうした中で、ギャラリーの出入り口で裸の男女が向き合っている、マリーナ・アブラモビッチの作品は全く説明がなくても異彩を放っていました。通り過ぎるとき左右から体温がほわっと自分に浴びせられて、珍しい体験をしました。

バーゼルに行きたかった理由の一つが、日本のギャラリーや日本の作家がどのような相対的ポジションにいるのかを肌で感じたいということでした。その意味では収穫がありました。私が行った時だけかもしれませんが、日本のギャラリーはおおむね閑古鳥が鳴いていました。村上隆氏も吹き抜け部分を使ってやや大きい作品を出していましたが、あまり賑わっているとは言いがたい状態でした。
日本のギャラリーのいくつかは、作品の印象も薄ぼんやりしており、奥に行くほど深い霧がかかっているかのように感じました。そこに神秘を見いだせればもう少し楽しく見えるかもしれないのですが、あまり魅力を感じなかったというのが正直な気持ちです。一方で、全体として客にアジア人が多いことを予想していましたが、思ったよりはずっと少ない印象でした。

メイン会場(ホール2)内には何カ所かカフェやレストランもあり、また世界中の美術雑誌のブースもあります。それらもアートフェア東京などでも見慣れていましたが、やはりスケールは違います。
見て回るだけで少しぐったりしてしまいました。ゆえあってVIPラウンジにも入ったのですが、そちらも席はほぼいっぱいで、休めたのは中庭周りのベンチだけ。そうこうしているうちに、かなり「アート作品とその展示」というものに食傷してきました。そこで、一休みして2階の渡り廊下で道路をまたぎ、隣のArt Unlimitedに行きました。こちらは、大型化する一方の現代美術作品や映像上映、壁画、パフォーマンス等に対応するために2000年より開始された大型展示で、 1万7千平米の巨大な空間を使ってこれらのプロジェクトを実現しています。今年は60のプロジェクトが行われているということでした。空間の巨大さたるや、以前の六本木アートナイトで搭乗した「ジャイアント・トラやん」が仮に40体くらいいても、余裕で並べて火を吹けるのではないかなどと妄想できるほどです。非常に天井高があって、渡り廊下部分以外はほぼ平屋の巨大な倉庫的なホールです。

こうした巨大な空間に仮設のブースをたくさん作って作品を展示しているのを見たのは、たぶん自分は2005年に山下埠頭で行われた横浜トリエンナーレ2005以来ではないかと思いますが、会場内ではまったく2005年のことは頭に浮かんできませんでした。つまり物理的な空間としては少し似ているけど、場としての印象は全く違いました。こちらが慣れていない、あるいは気に入った作品がなかったと言うことに尽きるかもしれませんが、あまり作品そのものを見る雰囲気ではなく、また一見して売買の対象物にはならなそうなものでもあり、何か、「着飾ったお金持ちたちが貸し切りにしたサーカス小屋に繰り出してきている」といった感じの違和感を孕んでいました(サーカスというとますます横浜トリエンナーレ2005のテーマと繋がってきそうですが、繰り返しますが全く違った雰囲気でした)。

Unlimited会場内にはアートブックショップとグッズショップがありましたが、驚いたことにグッズショップの取り扱う商品の半数以上、面積で言えば8割近く(印象ですが)が日本のデザイン系グッズブランドでした。アートに疲れた目にそれらのグッズが魅力的に輝いて見えるのは日本人だけではないようで、なかなか売れているようでした。

その後また会場内を一回りして、屋外の無料プロジェクトに向かいました。続きます。

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