2015年7月19日日曜日

2年前の鶴岡合宿! 加茂水族館、その後

クラゲ水族館といえば…
 文化施設運営…常に小林ゼミで話題とされ、全国の施設事例を参照し、その可能性を探っている課題ではありますが、今回は2年前の山形県鶴岡市の小林ゼミ合宿で訪問した加茂水族館の近況をお伝えいたします。
 今回の情報源は「THE BIG ISSUE」という雑誌で、「ホームレスの仕事をつくり自立を支援する」ことを目指した雑誌記事からです。私は出来るだけこの雑誌を買っているのですが(本郷三丁目かねやす前の交差点で販売員さんが販売しています)、実はゼミに関連する記事掲載も多く、自分はほかには定期的に雑誌を買ったりはしないのですが、これは毎号逃さず買っています。そして267号に加茂水族館の話題が掲載されていて、とてもいい記事だったので紹介したいと思います。何といっても2年前の合宿で、みんなが夢中になったクラゲ水族館のことですし!

民間スタートの加茂水族館 その困難なる歩み 
 全国的にも有名ですが、加茂水族館は1930年に地元有志によってスタートした民間水族館でしたが、1944年には県に譲渡、戦時中は海軍新兵の訓練場や水産学校の仮校舎として使用され、55年には鶴岡市立となり、1964年には建て替えられて新たなスタートを切ったそうです。小林ゼミの合宿で訪問した、あのレトロな施設はこの1964年の建物だったのですよね。とにかくレトロでした…。
 訪問時の館長だった村上龍男氏は1966年に館長に就任、その年に水族館は第3セクターの「庄内観光セクター」に売却されてしまったものの、近隣に新潟市水族館や秋田県立男鹿水族館ができ、入館者は減少、1971年には運営会社が事実上倒産し、職員は全員解雇を言い渡されたそうです。改修費もないほどみすぼらしい水族館は企画展をしても人が集まらず、流行に乗ってアライグマやナマズやラッコを導入してもどうにもならず、1997年に入館者は最低の9万人に落ち込み閉館を覚悟しました。
 
かなり偶然なクラゲとの出会い
 しかし、「生きたサンゴと珊瑚礁の魚展」の際に、展示中見たこともない生物が湧いて出て、それを飼育したところ、それがサカサクラゲでお客さんに大いに受けたことからクラゲの飼育が始まったそうです。クラゲの飼育は容易ではなかったものの、2000年には15種類のクラゲを展示し、「日本一」を記録、入館者も10万人を越え、水族館は再び鶴岡市に買い戻されました。2005年には展示種数「世界一」を記録し、2012年にはギネスに認定されました。そんな状況で人気も上昇し、水族館再建のためのクラゲドリーム債も大当たりし、立て替え工事が進行中だった時期の加茂水族館に小林ゼミ合宿での訪問は行われたわけですが、当時、素朴な施設ながらスタッフさんの熱意やクラゲの美しさに感動して、訪問時間が足りなかったくらいに充実した見学だったことが思いだされます。クラゲは本当にきれいでした。クラゲによるクラゲの捕食ショーとか、クラゲラーメン・クラゲアイスの販売など、どことなくシュールでユーモアのある展示が印象的でした。
 
2014年待望のリニューアルとその活況
 20146月にはいよいよリニューアルし、今や世界の各地から視察もあり、20154月からクラゲの飼育に尽力してきた奥泉和也氏が新館長に就任し、開館からの1年間に83万人の入館者を数えたとのことです。水族館の水槽はすべてクラゲの生態に合わせて奥泉館長が設計したそうで、再建時から話題となっていた5メートルの水槽によるクラゲの展示は圧巻の美しさだそうです。全国各地からの来館者はもとより、水族館をサポートするボランティアの方々の参画もさかんな様子です。
 昨年度の文化施設経営論(実践編)でも大いに話題となり議論された加茂水族館ですが、今回の記事を読んで、過去に一発で「クラゲ」のアイディアに行き着いたのではなく、ラスカルブームのアライグマやラッコの導入とその失敗があったことが印象的でした。その試行錯誤にはどれだけの苦労と迷走があったことでしょう。水族館がどんどん廃れていくなかで、必死に館の運営に尽力された前館長の村上氏の足跡は『クラゲに取り憑かれた水族館15年の取り組み』(加茂水族館刊)などに詳しいですが、あのすさまじいレトロな水族館であった時点での加茂水族館が見られたことが、その再生がいかに大変なものであったかを知るよすがとなり、鶴岡合宿で行っておいてよかったなと今改めて思う次第です。
 ハコモノのハコモノ的なリニューアルより先に、自分たちの運営実態を見つめ直し、そこに従うかたちでハコモノの再建が導かれた加茂水族館の足跡は、永く文化施設を語る際の事例として取り上げられていくのだろうと思います。

何が加茂水族館のいいところなのだろう?
 そのキモは、現館長の言葉、「前館長がどんなことも楽しみながら『これでいこう』という方針を決めてくれたから」「だから私もスタッフの提案にはできるだけNOと言わず、楽しいことは必ず乗るようにしています」にあるのだと思います。単純なようですが、なかなかできないことを、やってしまっている加茂水族館。是非、再訪したい文化施設です。

Mube

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