2013年5月20日月曜日

S.エセルの訃報から「世界人権宣言」を読む


 今年2月27日、ステファン・エセルが95歳で亡くなりました。1917年ベルリンにユダヤ系ドイツ人として生まれたエセルは、7歳で両親とともにフランスに移住し、第二次世界大戦中は対ナチス・レジスタンスに参加。戦後は外交官として活動し、晩年も最期まで一個人として移民問題やパレスチナ問題などに取り組みました。2010年に32ページの小冊子<Indignez-vous>がベストセラーとなり、34言語に翻訳されたことでとくに知られています(日本語版は、村井章子訳『怒れ!憤れ!』日経BP社、2011年)。この日たまたま聴いていたフランスのインターネット・ラジオでは、一日中追悼ニュースが流れ、彼自身の声の録音も聴くことができました。その魅力的な語り口―たとえば「母には、<幸福でいなければいけない、幸福は伝染するのだから>と言われていた」―に触れて、数日後にはじめてこの本を手にとったのでした。

 彼が若い世代に「憤れ!」と呼びかけるのは、怒りは単なる感情からではなく「自ら関わろうとする意志から生まれる」からだと言います。最悪なのは「無関心」であり、「自分には何もできない」という姿勢が人間を人間たらしめる大切なものを失わせるのだ、と。そして、現代においても変わらず課題である人権に目を向けるよう読者に促しています。1948年の国連総会で採択された世界人権宣言に、起草委員会事務方として草案作りに加わったエセルが心に刻む30条の条文に込められた願いの重みは、行動の人としての彼の生涯を決定づけたようです。

 「世界人権宣言」、文化政策研究においても世界的かつ歴史的な文脈として言及されています。今更ながらあらためて読み、噛みしめてみました。― 第22条「自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的及び文化的権利の実現を求める資格を有する。」など―

国際連合広報センターHP

谷川俊太郎訳(アムネスティ・インターナショナル、鎌倉グループHP掲載)
 
谷川訳はこども向け絵本にもなっていて、地域の図書館に置かれていました。

 だれもが持つ人権を「普遍的に」宣言する(Universal Declaration)ことには、国家の枠に拘わらず、世界中のひとりひとりの人間の意志に訴えるという根本的意味があったのでしょうか。エセルの言葉を読みながら思います。

(ykn)

0 件のコメント:

コメントを投稿