私の勤務する自治体では、今年度から世界遺産登録推進のための部署を教育委員会内の部署に設置しました。ここで私の頭の中に疑問がわきました。それは標題にある通り、世界遺産登録にむけた行政の担当部署は、教育委員会で適切なのか?というものです。教育委員会は、端的に言えば教育行政をつかさどる部署なわけですが、その中に世界遺産登録の部署を設置するということは、教育行政の一環として世界遺産登録を推進するということになります。
「教育」と「世界遺産の登録」とを論理的に結び付けるためには、たとえば、「世界遺産登録のためには、その重要性を国民に認識してもらうための教育が必要だ」とか、「世界遺産登録が実現できた際には、地域学習の資源として活用できる」といった説明が必要となってきます。
ところが、世界遺産とは「人類が共有すべき著名な普遍的価値を持つ物件」であって、解釈の仕方によっては教育資源なのかもしれませんが、それは世界遺産が持つ価値の一部にすぎないのではないかと思うのです。つまり、教育的側面から世界遺産登録のための部署を教育委員会内に置くことは不可能ではないにせよ、世界遺産の持つ意義から考えると、十分ではないということになります。
ここで、行政の組織論という観点から考えてみたいと思います。一般的に組織は、その組織の仕事に対する考え方や姿勢が反映されたものとみなすことができます。仕事の目的や目指すべき姿、それに係る仕事の進め方があって、実際の組織構造が形作られるはずです。この観点に立って、世界遺産登録に係る部署を組織のどの位置に当てているのかを見ることは、行政組織の中でその仕事がどのような意味に捉えられているのかをある程度判断するひとつの材料になるでしょう。
そこで、機械的に基礎自治体に限定して、googleで各地の自治体の状況をピックアップしてみたのが、下の表です。
釜石市
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総務企画部世界遺産登録推進室
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鎌倉市
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世界遺産登録推進担当
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機構に基づかない特命担当職。市長直属部門
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彦根市
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企画振興部彦根城世界遺産登録推進室
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佐渡市
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世界遺産推進課
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文化財室(文化財保護係・埋蔵文化財係)を含むが、教育委員会とは別組織
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伊豆の国市
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観光・文化部世界遺産推進課
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教育部とは別組織
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富士宮市
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教育委員会富士山文化課
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堺市
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文化観光局世界文化遺産推進室
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教育委員会とは別組織
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藤井寺市
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総務部政策推進課世界遺産登録推進室
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羽曳野市
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市長公室政策推進課世界文化遺産推進室
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宗像市
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経営企画部企画経営課世界遺産登録推進室
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北九州市
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総務企画局世界遺産登録推進室
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全国の状況をすべて確認しているわけではないのですが、意外と多いのは、教育委員会の外部に世界遺産登録推進のための部署を設けているということです。しかも市長公室などの首長部局に設置しているものが多くみられます。恐らくこうした自治体では、首長主導のもと、全市的に取り組む課題として世界遺産登録業務を位置付けているのではないかと考えています。
そこで、最初の事例にもどると、組織図から組織づくりの担当者の意図を私なりに解釈すると、「教育」(教育委員会)=「世界遺産の登録」(世界遺産登録推進の部署)とするため、世界遺産という普遍的な価値を持つもの(持つと考えられているもの)を教育という狭義の枠組みに無理やり押し込もうとしたのか、あるいは、すでに教育委員会にある文化財の指定業務と世界遺産登録を単純に同一視したのだろうと考えています。
結論としては、この事例の場合、後者の文化財指定と世界遺産登録を同一視したのだろうと考えています。こうなると、では文化財保護行政は教育行政か?という疑問に突き当たりますが、この問題は別の機会に論じようと思います。
(ま)
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