ということで、前稿の続きです。
青森県黒石市の町並みは、江戸時代に形成された「こみせ」とよばれる雁木が続く景観が特徴です。雁木(がんぎ)とは、通りに面した軒から庇を長く出し、その下を歩行者空間としたもので、冬に歩行者が安全に通行できるように防雪機能を果たすほか、夏の日差しや降雨を遮る役割も担うといいます。地域住民の情報交換の場でもあり、さながら現代でいうアーケードとして機能してきました。新潟県を中心に日本海側の豪雪地帯に分布しており、雪国固有の暮らしの知恵ともいわれています。
1枚目の写真は、黒石の代表的な観光スポットである「こみせ通り」を眺めたものです。これだけを見ると「はゃー、良く残っているねえ」という感想で終わってしまいそうです。だめだめ、わかってないなー。
もう少し歩いてみましょう。すると、重伝建地区を外れたところに、2枚目の写真のような景観が広がります。材質が木製から金属製に変わったとはいえ、通りから店舗部分を後退させて歩行者空間を確保している点では、伝統的な生活文化が引き継がれているように感じます。姿を変えた雁木空間といえるのではないでしょうか。こういうところに感動があるのです。
ところが、雁木空間はあくまで私有地なので、その処分は所有者の意向に委ねられています。そのため、伝統的な生活文化が失われるにつれて、3枚目の写真のように、道路境界線ぎりぎりまで店舗部分を広げる事態が起こるようになってきたと推測されます。実際、私有地であることがひとつの難点となり、各地で雁木空間の連続性が失われつつあることが報告されています。
黒石市民に対する意識調査では、「こみせは共同利用空間である」「こみせは自分のものであって自分のものではない」という根本的な意識があることが確認されたようです。「公/共/私」でいうところの「共」的空間として雁木空間が認識されてきたのでしょう。逆にいえば、このような生活文化に支えられて雁木空間が存続してきたわけです。生活文化が失われてしまえば、もはや町並みが残る保証はありません。
歴史的町並みを歩くときは、たんに町並みの外観だけに気を取られるのではなく、その町並みを支えてきた生活文化にまで想像力を働かせたいところです。
▽黒石市中町伝統的建造物群保存地区保存計画
▽雪国が育んだ雁木の再整備手法に関する調査について
(peaceful_hill)
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