2012年11月26日月曜日

台北の広場


 少し前のことになってしまいましたが、先月台北に行く機会がありました。10数年ぶりに訪れた台北は大変貌を遂げているように見えました。整備された地下鉄は、駅通路にまでモップがかけられてぴかぴかに清潔で、明るい色の服を着た若い人たちであふれている。信義副都心を抜けて101タワーの最上階に集った外国人たちは、「別の街だ!」と驚嘆したのでした。

 私にとって幸運だったのは、様変わりした都市の外観に驚くだけでなく、ゼミ卒業生のCさんとともに彼女のホーム・タウン迪化街を歩けたことです。18世紀末に大陸からの移住者が居を構えて以来、商人が築いてきた街は、意匠を凝らしたファサードをもつ建物にその豊かさを表わしながら、今も一大問屋街としてさまざまな品を商っています。土曜日に散歩をすると、そうした建物の外側にも内側にも、来訪者を受け入れてくれる空間が広がっていました。

 まず、街角の広場。一日中、思い思いに人々がくつろいでいます。この風景が私にはとても心に残りました。思い出したのは、長年東京に暮らした友人がUターンしてまもなく車社会をぼやいていたことです。「公共交通機関を使うことが少ない地方都市に、見知らぬ人と視線を交わす機会はほとんどない。思えば、電車に乗るだけでもいろいろと刺激を受けていたのだった」と。迪化街の広場は、何があってもなくても、文字通り社交の場として機能しているようでした。



 「広場」をもっと経験したくなった私は、お昼にお寺前の屋台村に連れていってもらいました。ガジュマルの樹が繁る戸外での食事は温かい土地ならではの光景ですが、思えば極寒期のヨーロッパの広場だってクリスマス・マーケットなどでにぎわいます。街に広場があることは人のライフ・スタイルに働きかけます。誰にとっても居場所があるということなのですから。



 迪化街では、改修工事に台北市から補助が出ることもあり、店舗、カフェ、アート・スペースなどを組み合わせて伝統的な空間に新しい命を吹き込むプロジェクトがいくつも出現中でした。多くの建物は、京都の町屋のように奥に長い基本構造をしています。手前の店舗スペースに続いて、植栽が施されたり鉢が置かれることが多い中庭的空間、そして奥まったプライベート・スペース。リノベーションによって、建物の外観がきれいになるだけではなく、開かれた店舗を入口に、もとは私的空間だった奥へと人を招き入れるしくみが出来ていく。さらに、市内のいくつかの街区を結んでアイディアを持つ人たちにつながりが生まれるような試み「台北人情way創意街区展」も開催中でした。これも一種、新しい広場の生成かも知れません。




 街歩きをしながら、ゼミのことも考えましたが、うまく結びつくかどうか。この日は、布市場のビルにある劇場で、初めて「台湾オペラ」を見ることにもなりました。それについてはまたあらためて。

(ykn)

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