能登半島からフィリピンまで、記事を拝読しているといろいろなところに行ってみたくなりますね。普段は関東圏にくすぶっている者ですが、積極的に外に出て、見て、感じる経験を大切にしていきたいものです…と書きつつ、本日ご紹介しようと考えているのは、東京にいながらにして京都の空気を味わうことのできる映画です。個人的な話ながら、高校時代の「将来の夢」が染織家だったのですが、そんな当時の夢を再びかき立てるような映画が、現在東京・渋谷のシアターイメージフォーラムで上映されています。
映画「紫」(~11/23)
http://www.art-true.com/purple/
この映画は、京都にある「染司よしおか」という江戸時代から続く染屋さんの五代目当主・吉岡幸雄氏を中心に、植物による染色の復活に取り組む人々の姿を描いたドキュメンタリーです。吉岡氏は、五代目を継ぐ以前、東京に出て編集者として働き、のちに美術出版社「紫紅社」を設立したという異色の経歴をお持ちの方で、日本の色にかかわる著作もさまざまあります。現在、染色の多くは化学染料によって行われていますが、江戸期以前には主として植物から取り出した顔料が用いられてきました。源氏物語に見られる多彩な色彩表現、「四十八茶百鼠」と呼ばれた江戸期の微細な色彩感覚などはよく知られていますが、これらの色彩の大半は植物の色により表現されていました。
自分の研究で、江戸時代に流通した「錦絵(いわゆる浮世絵)」を資料として扱うことがあるのですが、その多くは経年変化で退色が進み、全体的に黄ばみ、うすぼんやりとした色彩になってしまっています。しかし、その絵が刷り上がった当初はもっと色鮮やかで多彩な印象を人々に与えたはずで、今日見た感覚で、何か上品な、くすんだ、ぼやけたイメージで捉えてしまいがちな自分を振り返り、常々反省しています。以前、CGグラフィックで、ある寺院の伽藍の建立当初の着色を再現した映像を見て驚いたことがありました。こうしたデジタルな試みと逆方向の手仕事の世界ながら、古来の資料に現れる手法に則って染めることで、当時の色を再現しようとする吉岡氏の挑戦には、とても感銘を受けました。
(mio.o)
映画「紫」と「紫紅社」の紹介をありがとうございます。よろしければ、吉岡幸雄氏が再現した日本古来の鮮やかな色を作品ギャラリーでご覧ください (http://www.sachio-yoshioka.com/gallery/)。紫紅社のサイトでも、吉岡幸雄氏が植物染により再現した『日本の色辞典』『源氏物語の色辞典』『王朝のかさね色辞典』などの中身を動画でご覧いだたくことができます (http://www.artbooks-shikosha.com)。
返信削除11月23日〜12月9日、鎌倉の長谷寺にて「染司よしおか 日本の四季展」が開催されます。紅葉ライトアップに合わせて、観音堂・経蔵・山門を「染司よしおか」の植物染の布で飾るインスタレーションです (http://www.sachio-yoshioka.com/2012/1123.html)。
機会があれば、ぜひ実物を間近でご覧ください。
充実した内容のすばらしいブログですね。仕事を忘れて読みふけってしまいました(汗。貴重なゼミの情報を共有してくださり、ありがとうございます。