2013年1月13日日曜日

フランス便り(11)モンスター広場:後編


*この記事は後編です、まだ前編を読まれていない方はログをチェック!

外もすっかり暗くなった頃、講演が始まりました。
とは言えメディアテークの会場は2割程しか埋まらず、こじんまりした感じ。
・講演者の自己紹介(写真・映像作品をつくる作家François Hers氏
・芸術とパブリックコマンド(公的注文)の歴史
・芸術家の目線から見た現代社会におけるパブリックコマンド・現代芸術の公共性とは
・都市、都市風景の中の芸術
が主な内容でした。
議題自体は万国共通ですが、それを歴史的系譜の中で捉えようとする点や芸術家らも含めひろく語ろうとする点が見習うべき所だと感じました。

その中から今回は、登壇者François HersとJérôme Poggiの作ったドキュメンタリー映像、Les nouveaux commanditaires(新たなパトロン達)をご紹介します。

2004年、フランス中部に位置するIndre=et=Loire県Tours市の小さな広場に現れたモンスターが大きな議論を巻き起こしました。
といっても何かが来襲したわけではありません、ご安心を。
まずはこの写真をご覧下さい。
若干ぽっちゃり系モンスターですね。


写真をお借りした所:Tripper-Tips.com内、Toursとその近隣の情報、Le Monstre de la Place du Grand Marché(Betty投稿写真) http://betty.my.tripper-tips.com/photo/le-monstre-de-la-place-du-grand-marche-2576.html

Toursの中心、旧市街に位置するla Place du Grand Marchéは、かつては美しい噴水のある広場でしたが、近年では専ら駐車スペースと化していました。
近隣の商店主や土地所有者たちのグループが、広場の再開発によってこのスペースにアイデンティティを付与すべく、la Fondation de Franceの「 Les nouveaux commanditaires(新たなパトロン達)」プログラムを利用しようと考えたのが始まりでした。

社会の急速な発展によって提起された問題に対する人々のニーズに応えるプロジェクトの支援機関として1969年に誕生したla Fondation de France。
(フランス基金、非政府系独立機関であり政府からの援助はなし。http://www.fondationdefrance.org*英語版あり)
そのプログラムの一つである「新たなパトロン達」は、従来の公的権力主導の芸術文化「提供」における不均衡さ・文化の民主化の不十分さを解消すべく、全ての市民(単独・集団問わず)が現代芸術家(分野問わず)に作品注文するイニシアチブを与える事を目的とするもので、芸術家・出資者である市民・財団公認のメディエーターの間の協働という仕組みを中心に機能しています。
ちなみに、現在までに275作品がこのプログラムを通じて作られています。

フランス西部における本プログラムの手続きに関する基金公認メディエーターであるETERNAL NETWORK
(1999年Toursにて設立したアソシエーション、現代美術の制作・普及プロジェクトを構想段階から実際の制作に至るまでサポート。日本人では川俣正さんが参加しています。
の提案を受け、この注文はアーティストXavier Veihanに託されました。

出資者やメディエーターとの話し合いを経て、Veihanは、見た人が各々の想像を重ね合わせられる様な空想的で総称的なアイコンの制作を構想、かつての町の紋章の形を遊び心を交え脅威と守護の象徴であるモンスターの中に今日的表現を用いて具現化させました。
また、そのシンボル性において中世性を、その素材によって近代性を帯びたモンスターという表現は、過去と現在を繋ぐという側面もある様です。

今日では、
「観る者に想像させる点、そして形・色・素材の点で抽象的表現を用いる事で強烈なインパクトを与えるという点において、モンスターは公共彫像の伝統に新風を吹き込み、広場の使用に新たな方向性を指し示した」
「かつてはその名前を言ってもどこか分からなかった様な広場が、今ではモンスター広場と言えば誰でも分かるくらいになった」
などと評価され、新たなシンボルとして定着しましたが、当時は突如謎の巨大なモンスターがやってくるという事で様々な議論を巻き起こした様です。
とりわけ、その注文主が国や行政ではなく一部の市民であるという点が避難の対象となりました。
しかし、このモンスターの登場を通じて、改めて生活空間の公共性やそこにおける現代芸術の役割について、人々が真剣に議論をする事となったのは紛れも無い事実であり、それこそが重要な事であった、と出資者や関係者は語っています。

まだご覧になられた事が無い方、下記サイトより英語字幕でご覧頂けます、短い映像ですので、必ず!観て下さい。その中で、それぞれの関係者がそれぞれの立場でインタビューに答えています。
講演の質疑応答では、会場から注文をする作家の選択方法についての質問が挙がっていました。
つまり、公認メディエーターが選んだアーティストを出資者が承認する方式ではなく、公募制にすべきでは?という意見です。
それに対して、 François Hers氏はアート及びアーティストをジャッジするという事に対する疑念を呈していました。
私個人も、この事はとりわけ現代美術においてなかなか難しい問題だと思います。

という訳で長々と書いてしまいましたが、久々の「小林ゼミ生らしい」内容の記事を投稿をしたので、是非このドキュメンタリーをご覧頂き、皆さんの御意見やご感想を伺いたいと思います。
どしどしコメント、お待ちしてます!
(M.O)

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