1500年にポルトガル帝国が南米の大陸を発見した際、その土地に既に住んでいた人々がいた。すなわち先住民、インディオである。30年後、この土地はブラジルというポルトガル植民地になり、その初期にヨーロッパからの病気の影響でインディオは多くが死んだ。それから一次的に奴隷として扱われたが、ポルトガルは早くにインディオの奴隷化を禁止した。インディオの数はブラジルが発見された頃は百万の単位で数えられたが、現在300,000~350,000位がブラジルに残っている。インディオの奴隷化を禁止した一方で、ポルトガルは15世紀にアフリカ大陸からの奴隷商業取引を始め、そこでブラジル植民地に一早く導入することも始められた。1550年から1855年の間、ブラジルにアフリカから4億人の奴隷が入ったことが推測されている。1888年にはブラジルの奴隷制度が廃止された。現在のブラジルの総人口において黒人系が多い(2010年の調査で「ネグロ」は5.7%、黒人系のミックスを含めると48.8%)ことの一つの原因は、まさにポルトガルの奴隷商業取引にある。しかしアフリカからブラジルへ連れてこられた黒人たち、アフリカの各地を出身として文化や生活様式の異なる人々とその子孫が、ブラジルの文化の一つの基盤を作っていることは間違いない。
ブラジルの文化庁は昨年11月20日(ブラジルの黒人の日Dia da Consciência Negra)に黒人系の創作者や制作者を対象とする助成制度を始めた。このプロジェクトは文化庁と人種的平等振興政策庁の協力の結果である。プロジェクトの目的は「黒人系」のことがテーマ・対象になるだけでなく、「黒人系」自らが創造者になる可能性を広げることにある。
プロジェクトは公表された際に黒人系文化と関係ある非営利団体から批判があった。人種を前提とする支援が差別を助長させる可能性があるという立場からの批判だ。文化大臣であるマルタ・スプリシ(Marta Suplicy)は、この差別の話題に対して、今回のプロジェクトは差別ではなく、むしろ黒人系に対しての積極的な差別是正措置となることを目指すと答えた。
文化庁に中でこの対策のきっかけとなったのは、黒人系文化は文化庁で既に支援されているが、黒人系が文化に関するプロジェクトを実現することはよくあることではないという事実だった。その話題はスプリシ文化大臣が文化プロデューサーを仕事とする人から直接聞いて、今回のプロジェクトが生まれる一つのきっかけとなった。ブラジルの文化庁ホームページをみると現在複数の募集がある。例えば、文化庁の視聴覚部(Secretaria do Audiovisual do Ministério da Cultura)が若手(18歳~29歳)黒人系監督かプロデューサーのショート映画を6つ採択し、一件ずつ100,000レアルを与えるもの。それから文化庁と繋がっているブラジル国立図書館基金(Fundacao Bibioteca Nacional)が27つの読書拠点(Pontos de Leitura)を導入するプロジェクトを募集している。
ブラジルでは既に2001年から、リオデジャネイロ州において国立大学の定員のうち40%を黒人系学生とすることを定める「Cota Racial」という制度が始まった。この制度が始まる前に同州においては、2000年に国立大学の定員の50%を公立学校の学生から選ぶとする法律があった。
ブラジルにおいて、国立大学は非常に評価が高いにも関わらず、高等学校までの公立学校は非常に評価が低いという現実がある。私の両親が学校教育を受けた50年代~70年代までは公立学校の評価は良かったが、現在は極端に反対となった。残念ながら貧しい人たちが公立学校の主な学生となることは今の現実であり、一方で私立学校は裕福な家庭の子どもを学生としつつ、「教育」ではなく「大学入学対策」という側面を重視している。高等学校の後は予備校で勉強することも大学に入るためには必要となることも多くの人々の通る道となる。
Cota Racialが現在もブラジルで話題となっている。それに対しての批判の一つは、大学に入る人の割合で公立学校の学生や黒人系学生を決まった割合で前提とするのではなく、公立学校の教育の重視を政府に求めるべきであり、教育が良くなることと同時に社会の平等も生み出されるのではないかといったものである。
(M.P)
*参考
Boris Fausto,
História Concisa do Brasil, Editora da Universidade de São Paulo, 2008
黒人系創作者とプロデューサーをとくに対象とする助成制度に関するブラジルの文化庁のホームページ:
ブラジル連邦統計地理研究所(Instituto Brasileiro de
Geografia e Estatística
– IBGE):
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