2013年3月11日月曜日

オープン・フォーラム「日本におけるアーツカウンシルの役割を考える」


先日、アーツカウンシル東京(ACT)/ブリティッシュ・カウンシル/国際交流基金主催のオープン・フォーラム「日本におけるアーツカウンシルの役割を考える」に参加しました。ちょうど大学院の授業で韓国のアーツカウンシルの制度的課題に関する論稿を読んだところだったので、昨年設置されたACTはどうかという関心がありました。


フォーラムの構成は以下の通りです。
<基調講演(30分×2)>
・近藤誠一 文化庁長官
・リチャード・ラッセル アーツカウンシル・イングランド(ACE)戦略部門ディレクター
<パネルディスカッション「アーツカウンシルと芸術文化団体のパートナーシップ」>
パネリスト
・リチャード・ラッセル アーツカウンシル・イングランド戦略部門ディレクター
・片山正夫 公益財団法人セゾン文化財団常務理事(カウンシルボードメンバー)
・塩見有子 NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウディレクター
・中村政人 アーツ千代田3331統括ディレクター
・船曳建夫 東京大学名誉教授(カウンシルボードメンバー)
モデレーター
・菅野幸子 国際交流基金情報センタープログラム・コーディネーター

この構成から分かる通り、フォーラムの観点はACTの組織や制度ではなく、芸術文化振興(promotionではなくdevelopmentであり、現状維持ではなく発展を目指す)の日本での活性化に向け、英国の知恵や経験、あるいは現場からの意見を聞き、ひろく考える事にありました。
まだ出来たばかりの組織に対して評価をする事は困難なので当たり前かもしれません。


そもそも、ACTはどのような機関なのでしょうか。ウェブサイトには以下の様に記載されています。
経緯:世界的な文化都市東京の実現を目指し、平成23年11月の東京芸術文化評議会からの提言も踏まえ、芸術文化を推進するグローバルスタンダードな仕組みである「アーツカウンシル」を日本で初めて本格的に設置致しました。

設立趣旨:1)東京における芸術文化創造のさらなる促進や東京の魅力向上を図ることを目的とします。2)国際都市東京にふさわしい個性豊かな文化創造や、創造性に満ちた潤いのある地域社会の構築に貢献していきます。3)芸術文化の自主性と創造性を尊重しつつ、専門的かつ長期的な視点にたち、新たな芸術文化創造の仕組みを整えます。

機構の位置付け:ACTは、東京芸術文化評議会での政策提言やこれを踏まえた東京都の方針の下、事業を実施していきます。また、事業評価およびカウンシルボードでの議論等を踏まえ、東京都への事業提案等も行っていきます。

これらについては片山さんの発表から補足を抜粋したいと思います。
<日本のAC議論のひろまりのきっかけ>
・より有益な公的資金の使い方に関する説明責任が増えた事
・文化自体の再評価がなされてきた事
・どのような施策を講じれば有効なのかについて専門家が関与しておらず、またその目的自体も不明確である事
・アーツコミュニティ全般に対する一般大衆の不信感がある事
から、芸術文化振興の専門機関の必要性(ハードへの投資からマネジメントへ)が増えた。

<東京都とACTの役割分担>
東京都が芸術文化にコミットして行く理由、また芸術文化の中でどこ重点的に投資して行くのかを決め、それに対しACTが具体的な施策を採る。そのためには、民間の芸術文化活動の動向と想像活動の現場を観察する必要がある。
ACTは、プロジェクト実施だけでなく助成のスキルを高め、またその中でパイロット的役割、および情報の提供者として振る舞い、ネットワーキングを行うべきである。加えて、都民に対するわかりやすい広報をしなくてはならない。


基調講演は文化庁/ACEの取組を概観するに留まったため内容は割愛しますが、これらの発表を踏まえ、船曳先生は今回のフォーラムにおけるキーワードを「財務規律、自己検証、社会の中での関係を築き発展していく」の3点にまとめられました。
パネルディスカッションに入る前に、それぞれのパネラーからの簡単な発表がありました。(その中で片山さんが上記の言及をなされました)

塩見さんは、とりわけ初期段階における小額でも柔軟性のある助成や人材を見つけ育てる環境づくりの必要性、及びラッセルさんの発表でも言及されたリスクテイキングの必要性を強調されていました。
そして、中村さんはより実際的な観点から、アーティストの活動場所不足の問題を挙げられていました。(例えば地価の問題を考えると、制作場所を安い賃料で確保出来る様なシステムが求められていますが、アーティストの活動によりその地域が活性化されれば、それまで安かった賃料が高騰し、地域の発展を支えてくれたアーティストが移転を余儀なくされるという場合もある、という話題が出ました)

このパネルディスカッションを通じて、営利・非営利あるいは団体・個人といった、今までの日本の文化政策が文化を捉える時に用いて来た旧来型の枠組みだけでは現在の文化シーンを語ることはできず、今、地域間・アクター間などの柔軟な協力や、明確な目的とメカニズムの形成が求められていることが分かりました。
文化の発展を支えるリスクテイキングの概念に関しては、目的に対してどのように評価を解釈して行くのか、(失敗しないものを選び多くを透視する事だけ良い助成なのかどうかという点について)その自己検証システムの再考が重要である事も確認されました。

「行政はすぐ枠組みの話をしたがるが、そういうところにとらわれないACのあり方になってほしい。アートをリスペクトしてくれる人たちを増やしてほしい」という塩見さんの御意見が印象に残っています。
また、そのためには「アートの重要性について語るより経験させる方が何倍も有効」とおっしゃったラッセルさんの言葉に妙な説得感を覚えたのは、イギリスが長年にわたり文化振興という課題に取り組んで来た歴史に裏付けられたものだからだと感じました。
(M.O)

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