2013年3月21日木曜日

Programa Cultura Viva (I)



   20031月にルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ(Luiz Inácio Lula da Silva)がブラジルの大統領になった。ルーラは労働党(Partido dos Trabalhadores)のリーダであり、同党はブラジルの左派の最も重要な党である。70年代から社会主義の革命を要求した労働党は(ルーラは1989年、1994年、1998年に大統領候補者だった)、2000年代についにブラジル共和国の政権をとるまで上がった。ルーラの任期(2003年~2010年)は貧困対策また社会政策の成功した事業が実施されたとして世界的に評価された。ルーラは文化振興を重視したこともブラジルで評価されている。大統領になって初期に、文化省の大臣として有名な歌手、ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)を任命し、文化省の中の改革やブラジル文化支援システムを変革することを目指した。ルーラ大統領のプログラムで重視された社会戦略の側面が文化政策にも影響したとも言える。ジル大臣は歌手であるだけではなく、長年ブラジルの文化コミュニティの様々なところでプロデューサーとして活動してきていた。バイア州(Bahia)のサルヴァドル市(Salvador)のグレゴリオ・デ・マトス基金の会長であり、本基金はサルバドル市の文化基金であり、文化部の役割を果たしているものでもあった。その後、同市の議員に選ばれて、4年務めた。文化領域での長い経験を経て、ジルはブラジルの文化支援における様々な話題について、大臣に任命される前から直接に触れてきていた人物であった。文化大臣として選ばれた時、ルーラ大統領は「文化省を自分の舞台と同じようにして下さい。」と言った。ジルが大臣を務め始めて、80年代からのブラジル政府の新自由主義の影響のもとで、文化省は国民に対する文化的責任から離れ、文化と市場とを強く結びつけた政策を長く行った結果、ブラジルの文化環境が民間に依存することになったと言える。
 200676日にはブラジル文化省は“生きている文化事業”(Programa Cultura Viva)を設置した。現在の文化省においてもこのプロジェクトは最も重要と言われている。Cultura Vivaの目的は、基本的に「文化市場」にアクセスがないあるいはそのアクセスが限られている人々に、観賞だけではなく、創作することや、創作したことを発表・頒布すること、他領域の文化消費から自らの文化理解にフィードバックを得るための機会を獲得することなどのチャンスを提供することである。2003年からのルーラ大統領の任期においてブラジル政府では社会戦略がますます重視されたことに合わせて、文化へのアクセスにも社会の下層の人々が参加するための道が作られ始めた。
 ではCultura Vivaはどのように行われているか。基本的には社会の中にある市民の様々なグループやコミュニティなどが自らの文化活動を応援することをCultura Vivaは目指している。
Cultura Vivaの定義は単純ではないが、そこにこのプログラムの特徴や力があると言われている。Cultura Vivaは一つの取り組みではなく、全体的な方針であるから、異なるところに当てはまる多様性がある。例えば、ある先住民の村には伝統言語の伝承があり、その村がPonto de Cultura(文化拠点)になれば、文化省からの支援を通じてその文化事象に関する対策を作り、実施する可能性が生まれる。またある公立学校ではラジオ放送プロジェクトがあり、その学校がPonto de Culturaになっていてコミュニティの教育拠点の一つである学校のプロジェクトが支援を獲得することが出来るようになった。Ponto de CulturaCultura Vivaにおける最も評価されている事業で、競争的に採択された事業体が、180,000レアル(約870万円)を5回の分割で6ヶ月毎に支給され、応募した際のプロジェクトをその通りに実施していく。
 つまり、Cultura Vivaの「文化」の内容は決まっていない。それを決めるのは活動を主催する市民たちであると言える。実際に本プログラムに決められていることはその目的と対象のみなのである。文化省のホームページによると次の通り:

目的 
  文化イニシアチブと文化機関を承認する 
社会的・経済的プロセスを強化する
文化の創造、成果、発表を増加する 
文化のプロモーションや流通の独立を促進する

芸術や文化と文化の交流を促進する 
文化活動のための場(スペース)の数を増やす 
芸術に関する社会的なネットワークを促進・強化する 
国立文化システム(機構)(Sistema Nacional de Cultura)のコミュニティをベース(基本)として政策の構成をたて、文化のエージェントとして適正を与える

対象
大都会また小さな町に関わらず、収入が少ない(低い)層や、公共サービスが不安定な地域の住民
社会的弱者である若者・成人
公立学校の基礎教育課程の学生
基礎教育に携わる講師や教育学コーディネーター.
ブラジルの歴史遺産、文化遺産、自然遺産が認められる地域の住民
先住民コミュニティ、農村コミュニティ、独立奴隷キロンボの末裔のコミュニティ
社会的・文化的疎外の対策を発展させる文化エージェント、アーチスト、プロデューサー、学術研究者と社会活動家

 このCultura Vivaがどのように革新的であるかを理解するために、それ以前にブラジルで行われていた主な文化支援の取り組みを知る必要がある。それについて次回に触れたい。

MP

参考

Barbalho, Alexandre, outros, (Org.). Cultura e Desenvolvimento: perspectivas políticas e econômicas, EDUFBA, Salvador, 2011
Boris Fausto, História do Brasil, Editora da Universidade de São Paulo, 2012

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