今週帰国しました。欧州文化首都の記事に写真を添えましたので、そちらもご覧ください。2月最後の今日、以下は滞在中のメモからです。
パリでは日中のほとんどを国立図書館で過ごしていました。「フランソワ・ミッテラン図書館」の研究者用閲覧室はとても快適で文献サービスも行き届いているけれど、たどりつくまでが結構たいへんな構造で、駅から延々と歩き上り下りも多いです。そんな訳で、地下鉄などでバリアフリー対応をみかけないことがつねに気にかかっていました。
夜は劇場へ。オペラ・ガルニエで入手した席は、Logeの三列目(三列目から椅子が高くなるので見えます)。可動式の椅子で20人弱を収容する広さのボックスでした。この日この桟敷には重度の麻痺がある車椅子の女性と、入口までは車椅子でボックス内では杖を使っていた年配の男性がいたのですが、彼らが入ってくると周囲はすばやく自分の椅子をもちあげて動かし、通りやすいよう配慮しました。そしてさらに声を掛け合いながら少しずつ席を移動して、全員がよりよく舞台を見られるよう調整したのでした。古い劇場の固定席は間隔が狭い。段差のないLoge席が使いようによってはバリアフリーになることを知って感心。しかし、席の位置が価格差と連動する劇場で、日本だったらこれほど臨機応変にみずから他者のために動くかしら、とも考えるところでした。同じ状況で、案内の人が周囲に「申し訳ありません」とか言ってしまわないでしょうか。私たちはチケットを購入して「お客様」になってしまわないでしょうか。病や事故はいつ誰に訪れるかも知れず、老いは確実に皆に訪れます。誰でもいつまでも当然に舞台を楽しめる日常がある社会がいい、とあらためて思った夜でした。
もうひとつ印象にのこる劇場風景は、演劇の観客年齢層の若さ。今回は思うところがあり、音楽ものだけではなくなるべく演劇も観ようとしましたが、ネット販売分完売の演目が多かった。コメディ・フランセーズ仮設劇場平日夜の「病は気から」は、小さいこどもを連れた家族や先生に引率された高校生グループで賑わっていて、みんな笑いにきているかのようでした。ヴィユー・コロンビエ座「エルナニ」は劇場窓口でもまったく席がとれず。聴くことができた「コメディ・フランセーズにおける<闘い>」をテーマにしたフォーラムは聴衆の大半が高校生と先生でした。「演劇とは対立を舞台にのせるもの」という定義から始まった公開討論は、一夜目が劇作上の論点を、二夜目は社会での受容を論じるもの。コメディ・フランセーズの長い歴史のなかで作品とエピソードに欠くことはなく、さまざまな方向から<闘い>を捉えることができて面白かったです。参加した高校生たちは、次はきっと観客として舞台をみて自ら考えるようになるでしょう。
ふたつの劇場風景に接し、舞台芸術への<愛>が社会のなかで空間的にも時間的にも伝わって共有される場面をみたようでした。2013年2月のフランス滞在はあっという間に終わってしまいましたが、印象的な場面が深く記憶に残る点で、短いなりによい所もあったと今は思っています。
(ykn)
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