文化資源学研究室に集う方々は、分野やアプローチに多様性が見られるものの、総じて文化施設やその活動に大きな関心があるという共通項があり、私も日々皆様から刺激を受けていますが、一度外に出れば「芸術は敷居が高い、そもそも関心が無い」と言う声を聞く事があります。市民の博物館利用頻度に関して森ビルが行った2007年の調査によると(古いデータで申し訳ありません)、東京は年に平均1.9回で、世界の5都市中最下位だったそうです。
asahi.com「美術館に行く回数は? 東京が最下位 世界5都市調査」2007年12月22日
(http://www.asahi.com/culture/news_culture/JJT200712220006.html)(2012年5月27日アクセス)
その一方で、特定の展覧会では週末には黒山の人だかりに遭遇する事があり、また来館者の中には年配の方だけでなく幅広い年齢層の方を見つける事が出来る等、文化やその施設が人々の生活の中で何かしらの位置を見出しうる、その可能性の萌芽を期待する機会も少なからずあると言えます。
その背景として様々な点を指摘する事が出来ますが、その一つとして東京都内の「パス」及び情報サイトに今回は着目してみたいと思います。
芸術に関する情報媒体は、文字ばかりで取っ付き難い専門書的な色彩の強かった美術雑誌から、気軽にアクセス出来るアート関連ウェブサイトへ、急速な移行を遂げています。口コミやチェックイン機能でより身近に共有できる情報が増え、「おしゃれな余暇の過ごし方としての美術館やギャラリーでの芸術鑑賞」が容易になって来たと言えます。
そんな中、黄門様の印籠(?)のごとき学生証を持たない人々の間で特に重宝するのが「パス」です。各施設が提供している会員パスを超え、スマートフォンの普及と共に近年利用者を増やしてきたのは割引券アプリです。
アートイベント割引券アプリ「ミューぽん」は、NPO法人GADAGOが運営するアート情報バイリンガルサイトTokyo Art Beat(以下TAB)が管理しており、2011年には18000ダウンロードを超えました。TABは、3人のコアスタッフと翻訳スタッフ、そしてインターンスタッフによって2004年より運営されています。
「ミューぽん」の特徴は、「面倒な登録なし」で「話題」の展覧会やアートイベントの割引券を「適度な数」「順次アップデート」し掲載している点であると思います。
利用者は、割引目的だけでなく回遊候補の検討にもこのアプリを使っており、その適度なピックアップ感が受けている様です。こちらには常設展の割引情報は掲載されませんが、企画展チケットに常設展観覧料も含まれている場合も多いので、「ついで利用」が可能です。
展覧会単位で割引情報が得られるミューぽんに対し、より広範な博物館単位での割引を得る事が出来るのが「ぐるっとパス」です。
東京都文化行政との密接な連携の下、東京都庭園美術館等9カ所の文化施設の運営管理や諸文化振興事業を行う公益財団法人東京都歴史文化財団が提供するチケットブックで、2003年より発行されており、利用出来る文化施設数は2012年版で都内75カ所に拡大しています。使用期限が初回使用時から2ヶ月という規則があるものの、割引に留まらず入場券となるチケットも多数あり「お得感」がある事、またメトロ等公共交通機関の一日乗車券と「抱き合わせ」のセットもある事で、今まで行った事の無い文化施設に行く機会を提供しているのが特徴として挙げられます。
その沿革については下記ページにて詳しくまとめられていました。
「今までぐるっとパスに参加したミュージアム一覧」(http://www18.ocn.ne.jp/~toku2/denno/price_new.html#page-top)(2012年5月27日アクセス)
こちらは紙媒体であり連動性があるという訳ではありませんが、東京都歴史文化財団のHP(http://www.rekibun.or.jp/index.html)には丹青グループが運営する博物館・美術館・イベント情報サイト「Internet Museum」(http://www.museum.or.jp/)がリンクとしてついています。こちらのサイトは全国の展覧会情報や掲示板だけでなく、文化関連のニュースや学芸員募集掲示板等もついています。
その他全国各地に様々なパスがありますが、今回は東京で特に代表的な物を二つ取り上げました。
実際の使用に際する細かな改善点だけでなく、
・特定の対象の無い情報検索がアート情報サイトやそのコンテンツを通じて容易になる事でかえって偏った情報収集をしている事
・パスに参加している文化施設の傾向やパスの割引内容の特徴
等について考える余地が多分にあるように思われますが、NPO、インターン(ボランティア)、財団法人や株式会社が中心となって文化施設と協働し、それを利用する不特定多数の市民を巻き込んでアート情報ネットワークとその活用法が近年形成された事は、大きな意味を持っているのではないかと思います。
まとまりのない長文、失礼致しました。
(M.O)
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