新学期が始まりました。小林ゼミにも新たにメンバー加わり、今後の活動が楽しみです。
(新メンバーの方は過去ログにゼミで取り組んだプロジェクト関連の記事がありますので、そちらも参照して下さい)
さて、ブログの方も気分新たに!といきたい所ですが、今回の投稿は昨年末のフランス滞在の続きです。まだ紹介出来ていないものがあるので。。。
2012年11月下旬、「輸送」されてくる大量の観光客に紛れつつかの豪奢なヴェルサイユ宮殿に行く手前で左手に曲がり、扇形に広がるひっそりとした建物へ、インタビューに行きました。その名もラ・マレシャルリ( La Maréchalerie:蹄鉄場の意)。
ルイ14世の主席建築家マンサール(Jure Hardoin-Mansart)が1678-1682年に建てた厩舎裏手に位置するヴェルサイユ建築高等教育機関( l’école nationale supérieure d’architecture de Versailles :énsa-v)の現代美術センターで、フランスでは唯一の建築学校付属の現代美術施設です。
2004年、当時の校長ニコラ・ミシュラン(Nicolas Michelin:前職は芸術学校長)のイニシアチブのもとで建築と造形芸術の関係を再考する場としてこのセンターが作られました。
当該施設は、単に学校のギャラリーというよりはむしろ、「建築の授業を造形芸術の範囲にまで拡張する試み」として位置づけられており、年3回の展覧会を開催、より厳密に言えば、「3つの創作をサポート」しています。
建築家の卵である生徒にとっては、建築とアートの関係性を学ぶ場であると同時に、職業経験を得る場でもあります。
各展覧会にあたって、当該施設に所属するディレクターが「仕事の質/サイトスペシフィックな作品プラン/新進気鋭かどうか」という観点から選出したアーティストに対し、100%の資金・物資提供を行い作品を制作してもらいます。
その際に学校側が法定最低賃金(SMIC: Salaire Minimum Interprofessionnel de Croissance)で有志アルバイトを募集し、生徒は創作活動の物理的な手伝い(創作的観点には関与しない)や展覧会での監視などを行います。
一方芸術家にとっては、「創作活動の継続=作品を見える形で発表し続ける」ことであるので、有益な創作・展示の機会として活用している他、建築家との出会いにより創作におけるより空間的に自由な創造・新しい経験を得る事が期待されています。この事は今日のアートや建築に求められている在り方に則していると言えます。
その限りにおいて、当該施設は建築学校とつながってはいるものの、芸術のためだけの施設という点では建築と離れ、独立した機関として機能しています。
ラ・マレシャルリには、大きな文化施設と異なりメセナとなる企業がついていません。企業にとっての協賛の理由となる「可視性(いわば広報力)」が低いからです。
展覧会の内容によって、スポンサーまたはパートナーが物資の提供を行っています。例えば、私が伺った際の展覧会では展示室一面にブロックが敷き詰められていましたが、そのブロックをある企業が無償提供する、などです。
*フランスにおけるメセナとスポンサー・パートナーの違い:メセナは主に予算(お金)を複数年に渡り与えるが、スポンサーは物資や副次的協力を行う
原則として、各展覧会は既存の作品を持ち込み展示するのではなく、新たにその場で一定程度以上「サイトスペシフィック」と言える作品を制作します。
そこでは芸術家が作品の所有者であり、展覧会終了後に作品を売るか、壊すか、持ち帰るかは芸術家の一存に任せられています。(一般的にこうした作品は外部への持ち出しと再展示が困難な場合が多い)
作家選出の基準として「新進気鋭の作家」が挙げられていますが、施設の芸術性を誇示し生き残るために、しばしば既に有名な芸術家も招いています。川俣正さんもここで展覧会を開いています。
さて、先程この施設には「可視性(visibilité)が無い」と述べましたが、その理由は場の特殊性にあります。
駅からヴェルサイユ宮殿に向かう道の途中に位置するこの施設も、例にも漏れず17世紀の建物であり、歴史的建造物の法律で景観保護を義務付けられています。
従って、看板をつける事はおろかチラシを貼る事も出来ません。かろうじて透明な小さい掲示を出しているだけです。実際私も、なかなかたどり着けませんでした。
また、そもそもバンリュー(banlieue:パリ郊外)に位置する文化施設は、一般的にパリ市民(または観光客)には遠く、パリには既に様々な文化施設があるのでわざわざ郊外に行く必要はなく、注目度は低いという立地上に圧倒的に不利な点があります。
そんな郊外の文化施設にとって、イル=ド=フランス地方の現代美術施設を結ぶトラム(TRAM Réseau art conteporain Paris/Ile-de- France)は画期的なネットワークになっています。
週末にシャトルバスでランダムにいくつかのセンターをめぐるツアーが組まれており、気軽に行く事が出来ます。
ラ・マレシャルリは、その他にも教育プログラムに力を入れており、午前中(一般開館は午後から)には子供たちを招いてワークショップをしたりしています。
とは言え、ベルサイユの市民は比較的「保守的で現代美術に対して警戒的」だそうです。
近年、現代美術を用いて文化遺産を再評価・プロモーションする事が流行しており、パリ近郊でもヴェルサイユ・オフ(一夜限りの現代美術のお祭りニュイ・ブランシュ(Nuit Blanche)にあわせて開催)やフォンテーヌブロー城でデザイン展などが行われています。
背景としては、2007年の文化・コミュニケーション省(以下、文化省) 改革により国の管轄下にあった文化施設の経済的自立が促進されるようになったことが挙げられます。
ヴェルサイユは海外からの安定した集客があるものの、一般的に目新しさが無く客足が途絶えがちな過去の文化財に、起爆剤としての現代美術を用いるという極めて経済的な観点からの試みであり、それは美術館で頻繁に企画展が開催されるのと同じ原理です。
とは言え、そうした「コンテンポラリーアート万能説」の神話に乗っかった企画の中には、文化財と展示されるアートとの関連性が見えないものも多く、しばしば問題になっているわけです。
そもそも、コンテンポラリーアートも安くはないので、こうした企画で採算がとれるのかというのもブラックボックスのままです。
余談ですが、インタビュイーの人が指摘した通り、結局この日私はヴェルサイユに行ったにもかかわらず宮殿に足を踏み入れる事はありませんでした。
(M.O)
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