2015年2月24日火曜日

今日、大学構内で桃(?)の花が咲いているのを見つけました

Paweł Pawlikowski監督の『イーダ』が今年度のアカデミー外国語映画賞を受賞しました。この項目でポーランドの作品がオスカーを獲得することは史上初です。二年前、渋谷で行われた映画祭で観たときから夢中になった作品なので、今回の受賞はとても嬉しいです。
物語は1960年代、社会主義政権下のポーランド。修道院に暮らすアンナは修道女としての誓いを立てる前に、唯一の肉親である叔母ヴァンダを訪ねることになる。ヴァンダは姪に会うなり、彼女の本当の名はイーダであり、ホロコーストを生き延びたユダヤ人であることを告げる。そこから二人は過去を探る旅に出る…という感じの白黒映画です。同じく修道女を中心人物に据え、何より白黒の映像美が印象的であることからJerzy Kawalerowiczの『尼僧ヨアンナ』(1961)を思い出します。
国外では何十もの賞に輝き、国内でも概ね好評の本作ですが、扱う内容が内容なだけに一部では議論を呼んでいます。その際、問題になるのがホロコーストの描き方です。ネタバレになるためあまり詳しくは書きませんが、本作にはポーランド人しか出てきません。すなわちホロコーストの中で(ナチスドイツではなく)ポーランド人がどう行動したかに焦点が当てられており、歴史の古傷をえぐる作品でもあります。本作をアメリカで上映する際には、「ユダヤ人をナチスから救おうとしたポーランド人も第二次大戦時に沢山いた」という但し書きを本編前に流すよう求める署名が2万人分集まったという話も聞きました(記事)。
また、今回の国際的なヒットに関し、ポーランド映画はホロコーストを扱わなければこれほどまでに海外の関心を集めないのではないかといった意見も。『イーダ』はアカデミー撮影賞にもノミネートされたように、話だけが評価対象になったわけではありませんが、この指摘には考えさせられました。ホロコーストが20世紀史の中で最も激烈な出来事の一つであることはもちろんですが、その他のポーランド史、そしてそれを題材にした作品は国外に伝わりにくい気がします。
昨年こちらで話題になり、オスカー候補として推薦されるのではないかとも言われたJan Komasa監督の“Miasto 44”という作品があります。1944年に起きたワルシャワ蜂起の激戦を生きた若者たちが主人公です。首都が燼灰に帰した出来事を33歳の監督がどう扱うのかに注目が集まりました。こちらは蜂起についての基礎知識、そして何より現代ポーランドにおけるこの蜂起の意味といった背景を踏まえてはじめて楽しめる作品となっています。要は国外には「ウケにくい」ということです(個人的にこの監督には大いに注目しています)。
普遍性がすべてだとは思いません。しかし、この国では自分たちの歴史をどうやって芸術と繋ぎ、多くの人に届けるべきか格闘してきた人が多いのも事実です。ホロコースト表象をめぐる問題も昨今始まったわけではなく、『イーダ』のそれも予想外ではありません。ただ今回の映画は国内外で反響が大きかっただけに、それに対する疑問の声も多くなったということでしょう。どんなに優れた作品でも歴史のすべてを描くことはできないし、ましてや「正しい歴史表象」を義務付けるような考えはお門違いだと思います。ただ現実には、世界中の人がポーランド史に触れる機会は少なく、それこそアカデミー賞を受賞するような映画を通して初めて知ることもある。ここら辺はもはや映画制作者の手に負えるような規模の問題ではありません。

(N.N.)

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