2012年10月16日火曜日

足のしびれる話

先日、青山の銕仙会能楽堂(東京メトロ表参道駅A4出口徒歩3分)にて、能と創作舞踊の会を拝見してきました。この能楽堂を訪れる際には、タイトなジーンズやミニスカート、そして穴の開いた靴下を履いていかないよう、注意しなくてはいけません。というのも、普通の能楽堂ならば、靴を履いたままカーペットの上を歩き、ふかふかの座席に腰掛ければよいところ、ここではそうはいかないからです。某有名ブランドの奇抜なショップの真向かいにあるこの能楽堂は、コンクリートのすっきりとした外壁で、表参道の街並みに完全に溶け込んでいます。少し奥まった入口から中に入ると、まず三和土があり、靴を脱いで上がるようになっています。一階でチケットをもぎってもらい、綺麗に磨かれた階段で二階まで上がると、そこに能舞台があります。

銕仙会:http://www.tessen.org/

座席は、畳敷きの低い段になっており、大きめの座布団が一面に敷き詰められています。基本的には全席自由席で、観客は思い思いの場所で、床に座って鑑賞することとなります。最初は正座でじっと座っていますが、途中で足がしびれはじめ、最終的には横座りや体育座りで見るという、一風変わった観能体験を提供してくれる舞台であります。この能楽堂は、別名銕仙会能楽研修所とも呼ばれているので、元々は稽古を想定して作られた客席の設計であったのかもしれません。

国立能楽堂・観世能楽堂・宝生能楽堂といった「普通の能楽堂」の快適な座席に慣れた身には、床に座ったまま見る銕仙会能楽堂での経験は非常に特異なものにも思われるのですが、よくよく考えてみれば、能が発祥した世阿弥の時代は椅子に座って見たはずはなく、また江戸時代の庶民たちも、たまの観能の機会には、地面に敷かれたござの上で膝を詰め合って能舞台を見上げたわけです。また、江戸期までの能舞台は野外に建てられており、舞台に差し込む日光や、夜の闇を照らすかがり火の灯りで演じられてきました。そのように考えるならば、「能楽堂」というハコの中で能を拝見するという形式の方が、むしろ新しい独特な鑑賞のあり方だと言うことができそうです。

銕仙会能楽堂は、客席側の一方の壁面が窓になっており、開け放して日の光の中で演能を行うこともできる作りになっているそうです。いつか、天然光の中で演じられる能も見てみたいなあと思っております。

(mio.o)

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