2016年3月14日月曜日

大町冬期芸術大学 成果発表会に行ってきました

 
 
 さる313日、同期のPugrinさんと大町冬期芸術大学 成果発表会へ行ってきました。昨年の今頃は大町プロジェクトのため3月には3回も大町を往復した私たち、勝手に「自主ゼミ」と称してとんぼ返りで大町訪問を決行しました。

会場の大町市文化会館を訪れると、なつかしい顔ぶれの大町のみなさんが本番直前の忙しさの中、立ち働いていました。今年度の冬期芸術大学にはゼミ全体では関わらず、小林先生と李知映さんだけが企画プロデュースコースの講師を担当したため、われわれは観客として発表会に臨むことになりました。

受付を済ませると、まずは大きな石のオブジェの前に積まれた小石の中から好きな石を選び、会場に持ち込みます。舞台正面ではなく脇の通路に案内されると、そこはすでに空間美術コースの方々の作成したオブジェが空間を覆い、狭い通路を過ぎるとステージの裏に位置するバックヤードや楽屋に作品が展示されていました。楽屋の電球から溶け出したようなオブジェ、大きな木の幹…以前、ゼミの見学で見せていただいた、ただの舞台裏のスペースが「こう来たか~!」という感じで変貌しています。さらに青い照明に照らされた薄暗い順路をたどっていくと、ステージが出現し、さきほどの大きな木の幹のオブジェの裏側に相当する舞台上の箇所にも大きな木の幹が作られており、舞台のそこかしこに石が置かれています。自分の持ってきた小石をその舞台上の石の上に置いて、観客は着席していきます。一番後ろの席の背面は緞帳です。今回、舞台と客席はすべて本来の会館の舞台上に設置されていました。

 第2期生成果発表パフォーマンス、コンテンポラリーダンスによる「わたしのうつつゆめ」は女性ダンサーだけの構成、公民館の仮設舞台で行われた前回に比べ、舞台装置も照明も密度を増していて、衣装もシンプルでありながら、すべての要素がひとつの作品をつくることに注力されていることがうかがえました。ファッションコース講師の川口知美さんのプログラムの言葉、「ワークショップとは、実は、作品を作る事ではありません。」「舞台衣装とは、実は、衣装を作る仕事ではありません。」「ここにあるのは『自由』ではなく『協働』です。」に求められていることが、舞台で結実していたかと思います。

「大町に合わない」といわれるものをあえて取り上げてみた、という小林先生の言葉の通り、コンテンポラリーダンスはかなりハードルの高い文化芸術であり、こんな自分ごときのブログの文章で下手な印象批評をするのも躊躇されるジャンルではありますが、それでも今回の演目は大町にふさわしい、ここでこそ創れた作品だったと思いました。「市民の力を引き出すことができる希有なアーティスト」としての伊藤キムという人の才能が、存分に発揮されたクオリティの高い舞台だったと思います。ダンサー2年生たちの堂々たるパフォーマンスに加え、今回初参加のダンサー達とのバランス、弛緩と緊張の絶妙なアンサンブルは、今目を閉じても舞台での情景が思い浮かぶくらい鮮烈で、印象的な場面がたくさんありました。

大町冬期芸術大学の第3期はいよいよ「受講生主体」の授業が進められていくと聞いています。舞台をつくり上げることは大変なことです。私は、大学時代に舞台の裏方を専門とするサークルに属していたので、少しだけ舞台づくりに携わった経験から言っていますが、どんな小さな舞台でも誰かが動かなければ舞台は成り立ちません。大町プロジェクトは、まさにその「つくっていく側になること」、大町の人々が「自分たちのまちの当事者」になって動き出していくこと、そこを常に目指していたプロジェクトだったと改めて思いました。冬期芸術大学では「舞台をつくること」が成果発表となっていますが、その経験を通じて動き出す市民のネットワークやノウハウこそが、大町を変えていく大事な要素になっていくのだと思います。「つくっていく側」の風景を体験した人々が増えていったとき、過去において豊かに大町に根付いていた市民主体の文化が、新たなかたちを取って再生していく気がしています。また来年も、そのまた来年も、そんな大町の変化を見ていきたいね、と同期と話しながらの今回の訪問となりました。

公演の後、ふたりでぶらぶらと文化会館から駅まで歩きました。ゼミ活動の時は、車で連れて行ってもらうことが多かったので、歩いてみると「ここにあれがあったんだ」と新たな発見もありました。相変わらず日曜日にはシャッターで閉ざされている商店街ではありましたが、たくさんの地元のお酒を販売している酒屋さん、地元物産を販売する「いーずら」、「わちがい」、和菓子屋さん、夏の合宿で見学した「リプロ」で絵画制作をしている若者など、頑張っているところ、変化しつつあるところもあります。大町産のおいしそうな肉みそと、どぶろくを買って、帰りました。わくわくした一日でした。                                                                                                                                                           (Mube